oCoon


黒曜高校2年に転入してきた物静かな生徒、それが私、だ。
あまり人と一緒に過ごすのが得意ではないけどこの環境は強制されているものだから仕方が無いっちゃ仕方が無い。別に勉強をすることが苦痛なわけじゃないけどこの環境に一向に馴染める様子もなく緊張と嫌な予感は募るばかり。ぞわりぞわりとざわつくナニか。ああ、早く、

「一刻も早く放課後にならないかなー、って思ってますねー」
「!」

ぼんやりと教室の外を見ていると突然耳元で声が聞こえてきて驚きに顔をあげるといつの間にか視界に鮮やかな色が飛び込んできた。
びっくりして思わず腰を浮かそうとするもそのまま大きな手に宥められて大きく息を吸って、席に着く。

「驚きましたー?」
「ビックリしたっていうレベルじゃないよ、フラン。ついでに危うくパンチするとこだった」

バクバクと心臓が早い。手をもう一度ぎゅっと強く握られてようやく一息ついた。どうやらずっと、緊張していたらしい。

「殴られなくて良かったですー。は馬鹿力ですからねー」

口元を歪ませて笑うフランは通常運転で、きゃー!なんて可愛い声が聞こえたと思えば教室の隅で女子達がその笑みに黄色い声を上げて勘弁してくれと心の中で白旗をあげた。

いつものふざけたリンゴの被り物をしているというのに誰も突っ込みがないまま私とフランのこの距離を羨ましげに見ているクラスメイトを見るからにこれはどうやら幻術で隠しているようだ。
とはいえ現実ではちゃんとリンゴの被り物はしている訳だから誰かフランの頭をぶん殴った時にでも気付くわけで。

「目で認識出来ないものにわざわざ触りに行くなんて変態に決まってるじゃないですかー。ミーの頭に触るなんて100年早いですー」 「…フランって読心術使えるんだっけ」
の考えぐらい読み取れるのは容易いですよー」

馬鹿だし、と副音声が聞こえた気がして拳を作るとわー怖い!ってわざとらしい態度。
あ、さんがフラン君を殴ろうとしてる!なんてクラスメイトが実況をしてきたので何事も無かったかのように教科書を出して次の授業の準備に取りかかる。勝てるはずがないのだ。

フランの顔がいい事は否めない。
確かに他の男子達と比べればこの色の白さといい華奢さといい、性格さえ置いておけばまず欠点らしからぬものが見当たらない。まあ残念ながらその欠点というところが性格というか口の悪さだから仕方が無いといえば仕方ない。それでも女子はそこまで話したこともないだろうから気が付いていないだろうけど。

「今日はいつにも増して眠そうですー」
「誰のせいだと思ってんの」
「ミーの添い寝がそんなに気持ち良かったんならこれからはミー1人が横にいればいいですよねー?」
「そういう意味じゃないの。そもそもフランが居なくたって、私1人で寝られるし!」

ニヤニヤと笑っているフランに何事かと思えば女子達が聞き耳を立てている事に気付いた。私の発言だけしっかり聞こえたのだろう、どよめきが教室に響く。
っ、やられた!
高校生にもなって一緒に寝ているなんて噂になられたら困る。主に私が恥ずかしい!いや、それに関しては確かに間違いはないけど、…フランめ。

は本当に可愛いですねー」

私で遊んだことにより機嫌がたいへん宜しいらしい。
顔を赤くして俯く私の頭をポフポフと撫でるとフランはいつになく優しげな笑みで女性陣を魅了し、私は机の下で再度拳を握り、帰ったらぶん殴ることを決意した。