oCoon


は不可思議な存在である。


05.答え合わせを致しましょう 
―六道骸による集計、解析―


「…一体、何をしていたのですか」

先日と同じ並び、面々。骸は彼らをぐるりと見渡すと何の成果も得ることはできない報告書を見てハァとわざとらしくため息をつく。
それに対し過敏に反応しているのが千種と犬で、他の人間はただただ無表情だったり眠そうだったりと自由気儘な態度をとっていた。はー、とやる気のない声を上げたのはフランだった。

「大体こういうのってミーには合わないんですー」
「…それにしてはのことベタベタ触ってた」
「健全な男子だから仕方ありませんー」

始まるのは責任の押し付け合い。
こうなってしまえば幾ら稀代の術士と言えど怒られる責から逃れようとするただの子供と大差なく、ガヤガヤと言い始める彼らに頭痛を感じ始めるのも仕方ないかもしれない。
ならば骸だって応戦したい気持ちだってある。

「そういうお前もですよクローム」
「どうして?」
「…ほう、この場でどうしてと来ましたか」

どうにも自分のところの術士達はのびのびと育ちすぎてしまった感が否めない。そういうところは是非ともに似て欲しかったのだがこの10年で培ってきたものはそう簡単に変わるものでもなく寧ろの方が彼女達に影響されたところが所々に現れていた。
が、それはそれで愛おしいと思ったことはフランにでも聞かせれば贔屓目だと罵られるに違いない。


全ては骸の命令である。
と触れ合い、彼女について報告すること。尚、修練の内容も触れ合う方法、きっかけなども各個人に任せると言ってしまった辺りが失敗だっただろうかとその時の己の浅はかさを骸は若干、悔いている。自由にさせすぎたのだ。
犬と千種は確かに自分の求めた事のみを実行していたが何よりも欲しかったものは術士であるフランとクロームの報告であったというのに。
しかしそれでも、一応それなりの答えは出た事だけが救いだろうか。
そうでなくては彼ら2人のにしてきたこと全てに対し説教だけでは済まない。

「ていうかーそもそも師匠がやればよかったんじゃないですかー?の事好きみたいですしー一石二鳥っていうかー」
「僕がすればどうなるかわかっているでしょう」
「あー…まあそうですねー。キメラどころじゃなくなりますよねー」

グッと言葉に詰まる。
精神世界での修練を重ねた結果、何故か彼女は自分に対してのみ容赦なくなってしまったのだ。
軽い感情の高ぶりでキメラを創造されその都度あの質の高い霧の炎と精錬されつつある術士の力で生成されたそれにガブガブと噛みつかれると骸程力のある人間でなければ本当に傷ついてしまっていただろう。
言葉を変えれば自分のみを特別扱いしていると言えないこともない。が、創造するごとに力を増しているような気もして、それはそれで教えている身としては嬉しいような複雑な気分ではあった。

「…やれやれ」

本日何度目かの溜息をつきながら手元にある三枚の報告書に目を通す。
各個人、への修練やら他のことで半日を共に過ごした結果が書かれていたそれはやはり所々で気になるところはあった。
一文字も読み漏らすことのないようその長い指が文字のあとを辿る。その視線と空気を感じ取りようやくダラけた術士達が起き上がる様子が見えた。

「感知の能力は変わらずですかクローム」
「はい。私の術を感知したというよりは私の性格、行動パターンを読んで動いていたようにも思えます骸様」
「なるほど」

クロームとの修練は彼女の感知の能力が如何程であるかを調べるもの。結局のところはクロームの幻術を感じ取った後に幻術で対応したのではなく、半ば生存本能と、所謂野生の勘とでも呼べるそれでもって相対していたらしい。
力は確実に強くなっているだろうが未だその力は成長する兆しが見えていないということだ。

「次にフラン。これを見るからにやはりはどうやらキメラに関して知識として有しているということですかね」
「そう思いますー。後は何を創造させても攻撃的すぎるものが出てきますねー」
「ふむ。では彼女が無害なものを創造したのを見たことがありますか?」
「「「「全然」」」」

全員の言葉のハモリにトントンと書類を軽く叩く。
創造出来るということは当然のことながらその知識があるということ。例えば今回、フランがにウサギを創造するように指定した時に現れたソレはただの出来損ない等ではなく恐らくの中に何かしらあったものだ。
それだけではない。
今までの創造として現れていた空を飛ぶダイオウイカも、ライオンの爪を持つもの、麒麟の首を、ゾウの鼻を、鋭く尖った歯を持つ異形の化け物を彼女は識っていた。
おそらくはそれらが合成された合成獣―キメラ―を見たことがあるのだ。

そんなことはアルコバレーノに聞いてはいない。
知っている情報には含まれてはいなかった。

謎はますます深まるばかりで、しかしこれだけで話は終えることは出来ない。
何故ならば、


「では、もう一つの結果を」

これこそが前回、そして今回とこうして集まった理由であるからだ。
骸の合図で部屋の中央にの瓜二つのホログラムが投影され、声もあげることなく静かに降り立った。当然ながら骸が創り出した幻覚である。あまりにも精巧なソレにすげえと犬が目をパチクリと瞬かせた。
流石にここに有幻覚で彼女を創造した場合、何を言われるものか分かったものじゃないがこれですら十分に「うわあ」とブーイングが聞こえている。だがしかし最近と触れ合うことにより口が幾分か軽くなった弟子はそれだけでは収まらず、容赦なくそれに対しクレームをつけ始めたのである。

「えー師匠これちょっと胸盛ってません?」
「違うよ、はもう少し胸、大きい」
「「……」」

そんな事は問題ではないのだと思う反面、ならば…と素直に指摘された部分を変更する辺りは同類だと言えよう。

こうでもない、ああでもない。
首筋には小さな黒子がある、睫毛はもう少し長い、目はこんなぱっちりしている訳じゃなく奥二重だし瞳はもう少し紫がかっている、等、等。
千種ですら唖然としているその最中で術士たちは彼女の容姿を褒めながらも調整に調整を重ね始めてしまい一体何の討論なのか最早分からない様子になっていた。


「……何、してるの、かなあ」

だからこそ気が付かなかったのだ、戦闘においてはただの一般人未満であるがこっそりと部屋をのぞきこんでいたことに。
どうやらその事に気付いていたのは千種と犬の2人だけだったらしく「あちゃー」と言わんばかりにわざとらしく視線をそらしている。残りの術士達と言えば当人が現れたことで責任をまるっと骸に投げたらしい。「私はやめたほうがいいって言ったのに」「ミーもこの変態行動は止めたんですよー」なんて突然の師匠を売る言葉に骸も言葉を失い、いやはや困りましたねと笑みを貼り付けたまま扉の側にいるを見返した。

笑っている。
が、恥ずかしがり屋であったはずのが氷の微笑を浮かべている。

覗いていた事に対しては申し訳なさそうな、しかしながら部屋の中央に佇む自分とそっくりなその姿を見ながらは珍しくも骸個人に対し微笑みを浮かべたのである。


、これは」
「言い訳も嘘も聞きませんからね、皆。…もう1度聞きます」


──何を、しているのかなあ?

その言葉につつつ、と冷や汗が流れるのを止めることは出来なかった。