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夜ご飯は安売りされた物を考えてカレーにする事にした。

スーパーへ着くなり買ってきて欲しいものを2人にちゃんと伝えて私は主婦のおば…ゴホン、お姉さま達の中に入って戦闘を繰り広げ、ホクホクとした顔で買い物かごに戦利品を入れる。
2人とも最初は全然買い物とか分からなかったのに今ではどの野菜を選べばいいのか、だとかどこにどの商品があるのだとか覚えてくれたもので買い物時間は非常に短縮されていた。

とはいえ私も最初はあの群れの中に突っ込んでいく勇気は全然なくて、売り切れになっては夕食のメニューを変更することだって多かったことを思い出す。

「……」

いつの間にか私の持つ買い物かごにはスナック菓子が幾つか追加されていた。犯人を見れば何気ない顔をしながらも私の反応を伺っている。
…仕方が無い。


「いいよ、クロームも麦チョコ買って」
「!、すき」
「はいはい、私も好きだよ。だけどここは公共の場だからねー」

物欲しそうな顔をしているクロームが何を考えているかなんて分かったものでフランが買うならクロームも我慢させる必要は無い。
許可を得るとクロームは私にぎゅうぎゅうと抱き着いて好き好きと繰り返し始めた。こうなってしまえばなかなか離れるのが簡単ではないことぐらい理解している。どうにか宥めようとクロームの背中に私も腕を回そうとすると今度は後ろから、温かいものがくっついてきた。

「…フランはもう買うつもりで入れてるでしょ」
「ミーは抱きつきたかっただけですー」


むぎゅうと前後で暑苦しい抱擁をしてくる2人にもう1度ここが公共の場であることを説明しなければならない。
脱力して落としかけた買い物かごを慌てて握り直した。




黒曜ヘルシーランドへ着くと早速調理を開始し、その間にフランには掃除やらを任せてクロームは私の手伝いに。
聞いたところかれこれ数年、クロームやフランは此処で生活をしているらしい。最初こそ驚いたけど住めば都という言葉は確からしく今はお風呂以外何も不便だと思ったことはない。

渋々と掃除を始めたフランを見ながらつい口元が緩む。なんだかんだと役割分担はしっかりしているし、面倒臭がりの彼だって私とクロームに睨まれれば逃げる事はできなかった。
そんな私の横でトントン、と野菜を切る音。クロームも栄養を考えない食事ばかりしてきたらしい。料理なんてしたこともない人に包丁を持たすのはどうだろうと思いつつ、それでも皮剥きなんかは不安でまだ任せられないものの等間隔に切ることは出来るようになってて毎日の慣れというものは素晴らしい。

「…何?」
「ううん、クローム可愛いなと思って」
「……」
「うん、危ないから包丁持ったまま抱きついちゃダメだからね」

男所帯だった反動なのか、クロームは私に対して驚くほど全身で愛情を示してくれる。
フランはきっとその真似をしているに違いない。何だかんだ2人には大事にされている感覚があり、だからこそ私はこの2人の側はすごく落ち着く。

ちらりとクロームの方を見るとまた大人しくジャガイモを切り始めている。

綺麗な横顔を見ながら本当に兄弟設定って無理がありすぎたんじゃないかと改めて思う。2人の本当の年齢だとか、そういう詳しい事は実は知らない。きっと本当は私よりも年上なんじゃないかなあ、と思えるぐらい大人びていて、フランが実は20を超えていますと言われても納得できるぐらいだ。

、お腹すきましたー」
「ひぁっ!」

鍋の中にそっと入れようとした野菜が驚きに手元が揺れてドボンっと激しく落ちる。お湯がかからないように慌てて後ろから抱きついてきたフランとともに後ろに下がり、キッと睨みつけた。

「…フラン、料理中はダメって言ったでしょ」
「ミー初めて聞きました」
「嘘おっしゃい!…ああ、クロームだから包丁持ったままこっち見ないで!」

最近は特にこんな感じで、どちらかが抱きついてきてはどっちかが睨んでくるか両方が抱きついてくるという謎のやり取りが行われている。
流石に時と場所によれば私も怒るけれど大体彼らも人間で、学ぶ生き物だ。ここなら許されるだろうというところギリギリをついてくるものだから私も強くいうことは出来ず。

相変わらず空腹を訴えながら私の背中に抱き着き続けるフランと、包丁とジャガイモを持ちながら恐ろしく無表情なクロームの間で私は本日何度目かわからない溜息をついたのだった。
早くご飯が出来上がりますように。