レヴィは礼儀を通す男である。
毎年、彼の誕生日になると己の好物である雷おこしを持っていっては彼と彼の家族とささやかなパーティをするのが唯一の楽しみになっていたほどで、だがしかしそれはレヴィの同僚や上司であってもその関係を知ることは無かった。

そんな彼というのは過去ヴァリアーに所属し、そして当時入隊したばかりの同じ属性であるレヴィに対し戦闘の手ほどき、武器の扱い方等を惜しみなく教えたがある事故により右足を失うことになり使い物にならないと引導を引き渡され事実上の引退になったのだ。
今となっては知る者の方が少ないのだと思う。当時から組織の人間は随分と入れ替わってしまったのだから。


『元々、俺は引退する予定だったんだ』

何があっても朗らかに、笑う男だった。
そして寄り添う妻はそんな男に献身的に支え、二人の間に生まれた子供は泣き虫で人見知りな、父親似の女の子だった。
いつも父親の後ろに隠れてはそこから覗き込むような形でレヴィを見ていたが通い詰めて3、4年もすれば自分にも懐くようになってきていてある意味妹のような存在になっていた。家族の事なんて覚えてやいなかったが、ここはある種帰る場所のようなものになってきていた。


「…そんな、まさか」

それは何度目かの、彼の誕生日だった。
連絡を寄越さずとも毎年彼の誕生日にはやって来ては「また来たのかい」と嬉しそうに笑う彼の姿を思い起こしながら土産を手に、近くまでやってきたというのに。
目の前の光景に力が入らない。喉がカラカラに乾いている。

男が住まう場所は人里離れた山の中だった。
何度か引越しをしていることは知っていたが、どこも人のいないような場所を選んできたのだから理由なんて聞かずともわかっていた。
優しい彼のことだ、家庭を守るためもあったのだろう。ヴァリアーに所属していた時分はある程度地位も手に入れていたのもあり、恨みをかっていたのは当然なのだから。


そして、今、
彼の目の前には山火事が、誰の生還も祈らせてはくれない勢いですべてを飲み尽くそうとしていた。


『何かあったら、妻と子供を頼むよ』

探す余地などないというのにどうしろと。
手に持った土産と、それから子供に渡そうとしていたリボンに包まれた小袋がレヴィの手から滑り落ちた。