「答えろよ
「…ごめん、なさい」

謝罪の言葉が聞きたいわけじゃない。
お前が無事でよかった、と。そう答えて、彼女に触れたいのにどうしてこうも自分の身体だというのに言う事が聞かないのだ。
本当はが無事であることに何よりも安堵しているのに、自分の口をついて出る言葉は彼女に厳しく突き刺さる。防御壁のなり損ないのようなものが彼女の呼吸に合わせ、彼女を守ろうと周りを取り囲む。悪循環だと、分かっている。それなのに、どうしようもなく。

くらり、と身体がふら付いて視界が揺らぎふとのベッドが目に入った。
久々に訪れた彼女の部屋は前と変わってはいない。ただ、不意にそのベッドの上を見るとそこには半分焦げた何かの物体が異様な匂いを発していた。


「…何だあれ」

ベルの小さなつぶやきを拾いとったは大きく目を見開いた。
動揺するほどに見られたくないものだったのだろうか。再び視線をそれに目をやると、それはどうやら花束のようなもので。
残念ながら花を包んでいた包装紙の部分が焼け焦げ、それが伝って花まで半分以上焦げて元々がどういうものなのか分からない状態にまでなっていた。


「皆に、隊長のお見舞いは花束がいいって」
「…俺に?」
「ごめんなさい、持って帰ってきたところまでは無事だったんです。部屋まで帰って来てから何故だか身体がいう事を聞かなくて、」

燃えて、しまいました。
段々と力無く消えていくのその言葉に、ベルは言葉を失った。

――自分のために?

ハッと我に返る。
自分は暴漢に襲われ泣いていた彼女を心配して、この部屋に来たのではなかったか。なのにどうして、彼女を傷付けるようなそんな言葉しか吐けないのだ。
そんな彼女は、気丈に話しながらもかたかたと震えながら、それでも暴走しないように、ベルを傷付けないようにと今必死でコントロールしているというのに。

そして今、は何に怯えている?


自分が尋常でなく殺気立っていることに気付く。彼女の前で呼吸する方法を忘れてしまっていたようだ。の前で、情けないところしか見せていない。
緊張を解き、ひとつ大きく息を吸うとに一歩近付く。薄れた殺気に、無意識に緊張して張っていたなり損ないの防御壁が落ち着き始める。


「…お前の親はお前が暴走した時、お前を半殺しにして止めたんだってな」
「…」
「親だから当然だっけ?俺がお前を止めんのはそっちの意味じゃねーけどさ」

彼女の真後ろにある壁に手をついた。
触れたい気持ちも離したくない気持ちも、愛しいと思う気持ちも無謀な行動に対する怒りもスクアーロに対する嫉妬のこころもすべてすべて、彼女の前では落ち着きを取り戻す。
みっともないところばっかり見せて、ばかりいるけれど。

忘れてしまっていた呼吸の方法は、彼女だけが知っている。


「愛してんだよ、
「!」

再び防御壁の構築される音が聞こえるが覚悟はもう出来ていた。
それでもこの手は離したくないのだ。そう気付いてしまった。の目が僅かに潤んでいた。彼女をこう怯えさせてしまったのは他ならない自分なのだ。
手を伸ばし彼女の自分の腕の中に閉じ込めると、防御壁はもう不思議と恐怖ではなくなった。拒絶されるのは当然だと思ったからなのかもしれない。そうされて、当たり前なのだと。
けれど、


「隊長…隊長ごめんなさい」

ゆるりと自分の背中に回される何か。
それがの腕だと知り、そしていつのまにか彼女が纏う電撃が消え去っていると気付いたことに安堵から忘れていた熱の症状が再びベルに襲いかかる。
弱々しく抱きしめ返す彼女の謝罪の言葉を聞きながら、とうとう意識を失った。



パンジーに込められた
愛のために死ねるとか映画とかでよくあったけど俺ぜってー死にたくねえや。
死んだらもうに話すことも触れることもできねーんだろ。そっちのが辛くね?