「ベル隊長、お話があります」

難しい表情を浮かべたが執務室へと入ってきた。
あれから、1週間。
彼女は変わらず他の部隊への任務を、ベルは体調を完治させ高ランク任務をこなす日々を送っていた。

と会いたくないわけが無かった。
だがあれから彼女と意図せず顔を合わせる機会が格段に減り、そうなると今度は心がを求めて止まないことに気付き自嘲気味に笑う。八方塞がりにも程がある。
自分の伝えるべきことは伝えてしまったのだ。あれからスクアーロも何も言っては来ない。
そんな中、突然やってきた彼女の姿に終わりだろうな、なんて何とはなく思いながらもベルも何も気づいていないように首を傾げてみせた。



「ひっさしぶりー」

彼女によって連れてこられたのは懲罰房。始まりの部屋だった。
あの日のことはよく覚えている。ただ毎日がつまらなくて、飽き飽きしていたあの時。
何か面白いものがあればと目を向けた先にがいた。履歴書を掴み、レヴィの元へ。
あの鈍重な男を慕う女なんているわけが無い。そう思っていたのに自分は蚊帳の外で。

懲罰房から除きこみ、の顔を見たあの時だった。きっかけを思い出すのは簡単だ。
何て事は無い、あの時、自分はこの女を見て、恋に落ちたのだ。一目惚れと言っても過言ではない。
それなのにレヴィと二人の世界で話し始めれば面白くないと嫉妬して、それからが可愛げなく自分を敵視したものだから懲罰房から出し奥の部屋へと彼女を連れていき。


『生意気な女は嫌いなんだよねー俺』
『貴方に好かれようなんて思ってはいないですよ。私はレヴィ様の片腕になるべくここへ来たのですから』
『しししっ本当可愛くねーやつ』

自分の身体が動いたのと、彼女の身体から放電されたのとほぼ同時だった。見たことのない技にベルの動きが一瞬止まり、そしてそれが仇となり。
神々しく放たれる電撃を綺麗だと思った。拒絶の壁をぶち壊したいと思った。
手に入れてやろうとわざわざXANXUSに掛け合って自分の部隊に引き入れて…あれから、数ヶ月か。長いようで短かったものだ。


「ではよろしくお願いします」
「は?…ってうおっ!」

ピッと90度綺麗に深々とお辞儀をしたかと思うと彼女は突然ワイヤーを繰り出した。
流石にここで血を流し記憶を飛ばすわけにはいかない。
慌てて避けるも彼女の実力はベルもよく知っていた。中途半端に手を抜けば大怪我を負うことぐらい。そして自分が血を流せば、…それもはきっと知っているに違いないのに。
どうして彼女はこうも真っ直ぐに見てくるのだろう。戦闘を楽しむ性格という点であればとベルは少し似ていたのかもしれない。今まで蓄積されていたモヤつきを吹っ飛ばしてしまうほど、笑みを浮かべ

「あの時の私とは一味違いますから」
「どーだか…なっ!」




身体を動かしてしまえばどうにも頭の中が空っぽになるのは両者共通だったらしい。
結果として、初めて実力を知ったあの部屋では惨敗だったが何故だか晴れやかに笑みを浮かべている。
『参りました』その一言でナイフもワイヤーも片付けた。
好いた人間ではあるが、戦闘においては別物。それはヴァリアーに所属している以上当然、そうでなくてはならない。ある意味ベルにとっては楽しくも、複雑な一時だったが。


「突然どうしたんだよ」

ぺたりと座り込んだもワイヤーをゆっくりと巻きつけながら片付けている。気が付けば、ベルの中のわだかまりは少しだけ減っていた。いつも通り、彼女とまた日常を過ごせるのかもしれないという淡い期待を抱けたことに。

話があると聞いて懲罰房まで来たというのに彼女は一体何を考えているのだろうか。の事は未だに、良く分かってはいない。だけどそれでも、彼女のことを想ってしまったのは揺ぎ無い事実。それは未だに変わりない。


「あれから私、よくわからなくなったんです」

の前で前かがみになり言葉を促すとようやくは顔をあげた。
その目は、困惑に揺れている。


「…あれからって」
「貴方に、ベル隊長と懲罰房で手を合わせたあの日から」

おもむろに差し出された彼女の手が、ベルの頬に触れる。いつも冷たい手は先程の戦闘により少しだけ温かく気持ちがいい。
彼女の体温を感じたのも一週間ぶりだろうか。揺れる瞳も、きゅっと引き締められた唇も、何もかもがベルを揺さぶって止まない。
そんな事だって彼女は分かってやいないのだろう。不思議と穏やかな気持ちになれたが、彼女は尚、言葉を紡ぐ。


「レヴィ様の片腕になれればそれでよかった当時の目標の邪魔になるように、貴方のことがちらつきます。苦しいんです…どうしてだか」

触れていない彼女の手は、自身の心臓の上に添え。

まさか。
口元に浮かべていた笑みが一瞬で凍りついた。脳裏には彼女のこれまでの行動が早送りで再生されていて。

パステルカラーも、部屋まで来た見舞いも、花束も。彼女のありったけの好意だとしたら?
鈍いだの他人との付き合いが下手だのと笑っていた自分こそ、笑い者だ。彼女はこれほどまでに真っ直ぐ自分に向き合っていたというのに、気が付いていないのは自分の方だったなんて。


「…ベル隊長、私に何かしましたか」

それでも彼女は答えを求め真摯な眼差しでベルを見詰めた。
そこまで答えが出ているのに、その先は分からないのか。それとも知っていて…?否、そんな計算高い人間ではないことぐらい知っている。そういうところだけはが鈍いことに変わりない。


気が付けば体内に蔓延っていた痺れもぐずぐずと溶けて、心臓の痛みもいつしか引いていた。彼女の、その言葉だけでこんなに自由になれるものなのか。
ゆっくりと呼吸をして、笑みをひとつ。きょとんとしたにこの痛みと晴れ晴れしさは伝わるまい。

――ほんと、こいつに勝てる気しねーよ。
そう思いながらも彼女の疑問に答えられるよう、ベルもの頬に手を伸ばすのだ。



取り敢えずは彼女が理解できるようゆっくりと伝えるために。
自分を捕らえて離さない、愛の話をすべく。


L'amore e' come il fulmine
―愛は雷のようなもの―