ボンゴレに所属しているとは言えお堅いルールや技能試験という地味で仕方のないシステムをベルは気に入っていなかった。
実力があればスカウト、やる気があるなら自分のように入隊志望し幹部もしくはボスであるXANXUSに己の実力を見てもらえばいい。それだけでいいじゃないのかとスクアーロに訴えたこともあったが結局組織に所属するということは自分の意志以外の何かともかち合うこともある。
結局のところ、ベルの入隊以降幹部クラスになれそうな実力の人間が一人として現れなかったことが原因なのだろう。

今年で3年目となるこのボンゴレの主催するヴァリアー入隊試験もそろそろベルを飽きさせていたが今回は少しだけ違った。明らかに毛色の違う人材が入ったと面白い情報が手に入ったのだ。
意気揚々と履歴書1枚を手にレヴィの待機している部屋に入る。


「なあ聞いた?お前の隊以外入りたくねーっていう女がいるらしいぜ」
「…女?」
「どんな女なんだろうなあ、王子超楽しみ!うしし!」

それはそれは衝撃的な面接だった、らしい。
大体所属希望の面接というものは己の属性にあった幹部の下につくというのが通例となっているが若干違ったとしてもある程度は本人の希望通りの所属に就くことも可能となっている昨今、
正直言ってレヴィの下を希望するものは圧倒的に少なかった。

それもそうだろうとベルは思う。
皆が皆簡潔に適当に書いている業務内容に対し、レヴィのみが馬鹿正直にとある隊員の一日の過密スケジュールを書いてみたりXANXUSの為に命を賭せ、などとでかでかと書かれてしまえば最初は雷撃隊を希望していたかもしれない者の意志が霞む場合だってある。
勿論その隊員のスケジュールだって本当は他の部隊長が書いていないだけであってほぼどこも同じものなのだし、ヴァリアーに生死を賭けろということは言うまでも無いことである。


「履歴書見ねーの?」
「必要ない」

どうせこれから対面することになるのだと答えるレヴィにつまんねーのと呟いた。そうだ最近は何も楽しい事なんて無かった。久々に面白い玩具に会えるものだと楽しみにここへやって来たのだから。

書記の人間が残した面接記録によると、面接ではそんなレヴィの隊のみを希望し他の隊には興味が無いとハッキリと答えたらしい。
勿論レヴィ率いる雷撃隊も人数は足りていないので歓迎状態だったし試験結果に問題はなかった為、後は隊長の指示に従うというところだが


『…それでは希望はレヴィ様の雷撃隊ということで』
『はい!それ以外になりそうでしたらまた来年試験を受けに来ます!』
『わかり…ええええ?!』

履歴書の2枚目にはやり取りが残された書面がつけられているがここで記録は途切れている。書記の人間も動揺したのだろう、この辺りで文字がひどく汚くなっている。

頭脳、語学、戦闘スキルに問題はないが人間性に△がつけられている辺り彼らもレヴィの部隊を希望する輩にろくな人間がいないと思っていたのではないのだろうか。因みに今年の合格率は僅か3%だったというのだから、それを希望の配属ではないからと簡単に捨てるつもりだったとは相当おかしいのではないかと見て取れる。

ソファに寝そべりながらベルはその変わり者の人間の情報をもう1度目を通す。
、17歳日本人。住所は日本で、レヴィが何か知っているのかと思いきや彼の様子を見るにそうではなかったようだ。

確かに過去、リング戦において幹部クラスとXANXUSで日本に渡ったことはあるがそこで知り合いを作った記憶もない。属性は雷。そして武器はワイヤーだった。
果たしてそれひとつで何が出来るかといったところだがそれでも実技試験においては非常に優秀だったと書いてあるので本当は是非とも嵐部隊にほしかったところだが、
何しろこの情報を入手したのはたった今で何かイレギュラーなことがない限り融通は通らないだろう。だからこそ、本人を直接見に来たという訳だ。


「ナイフも覚えたら王子の遊び相手に昇進させてやろーっと」

ベルの目的はただそれのみだった。やはり同じ武器を使うもの同士見ておきたいものもあるし、潰してしまうのも一興だ。優秀と聞けばさらに燃え上がってしまう。最近は人数が激減していることをスクアーロにも口酸っぱく言われているが知ったこっちゃ無い。
要は自分が楽しければそれでいいのだ。


「はー早く研修終わって上がってこねーかなあ」

レヴィはそんな様子を横目でちらりと確認した。
ベルといえばいつも面白そうな人間を一番に引っこ抜いては玩具にして潰していく困った常連だったが今年はそう言った人材にすら出会えなかったのだろう。
かと言ってレヴィの部下になる者を勝手にダーツの的にされては困るのだが。一応釘をさしておくかとレヴィが口を開いた瞬間に、この静かな場で突然内線が響き渡った。


「はーい?」
「おい!ここは俺の部屋だぞ!」

まもなく所属希望面接の結果を見て、新米達が各幹部に対して挨拶に来る予定だった。
恐らくその内線もレヴィのところにやってくる人間の報告だというのに怠惰の王子は我が物顔でそれを取る。
何言かを交わして電話を置いたベルは近年稀に見る笑みでレヴィを振り返った。


「お前んとこの女、10日の謹慎処分だってさ」
「何」

あーおっかしいの。そうやってゲラゲラ笑うベルを見ることは滅多とない。
否そもそも最近は遠方への任務が互いに多かった所為で彼と話すのも久しい気がする。


「もーだめ。俺会いに行こ」
「他の部下はどうするんだ!」
「あー大丈夫大丈夫」

しししとお決まりの笑みを浮かべ、爆弾をひとつ。


「その女が全員ぶっ倒したらしいから」

その意味が良く分からず聞き返そうとベルを見ようとしたが当の本人は履歴書を片手にさっさと部屋を出てしまっていて。
一体どういうことなのだと思いながらもレヴィは入隊一日目にして謹慎にかかった問題児の様子を見に行くために同じく部屋を後にした。