「まずはこれをご覧ください」

懲罰房へと向かう前にまず見せられたものは一つの映像。
押収したカメラに映ったのは所謂新人同士のいがみ合いの瞬間だった。

人事曰く今年はどうも前年に比べると人材的には富んでいなかったらしい。
その状態で何とかの点数を取り受かった唯一の女であるに対し、何年も勉強と実技を積んできた所謂二浪、三浪連中が突っかかってきたというのが事の発端のようだ。幾つになったとしてもこういう幼稚なものがあるものだとベルは馬鹿馬鹿しさに鼻で笑う。

カメラを設置していた場所は合格者を各部隊へと連れて行く前に集められた部屋の片隅だった。つまりこのカメラに映っている全員が合格者で、そしてこの時点で既に何処に配属になるか分かっている時間帯でもある。

雷撃隊への配属が余程嬉しかったのだろう、人を避けるようにしてポツンと部屋の隅の席に座るはそれでも映像からでも分かるぐらい浮かれているのが分かる。寧ろこれから部隊長への挨拶があるというのに一人で肘をついて頭を左右に振ってウキウキとしている辺り度胸のある女なのだろう。

あくまで映像は遠目からしか見えないがそれでも彼女の回りをズームにするようベルは指示した。
その後に対して数名の男が彼女の周りを取り囲んだ。如何にも屈強そうな男達だが全員が見覚えがある。見事に嵐隊配属予定の新人達だ。

映像で顔を確認後、新人達の中で如何にもボス面をしている人間を手元の履歴書で探し出す。経歴を見ればどこぞのマフィアの用心棒として数年働いてきた経験者だった。だからこそのような貧弱そうな女を見て何か思うところがあったのだろうか。

そうして、その男は耳元でに対して何かを言う。
もう一度ズームに。ベルの指示で男の顔が更に大画面に映る。悪巧みをしているような、そんな嫌な表情だと思った。男が何かを言い終えたと同時に彼女が顔を強張らせながら立ち上がった瞬間、突然部屋中が光に染まりそしてその輝きが戻った時には死屍累々となっていた。
女はその場で座り込んでしまい、何事かと事務員が駆けつけその場は収束した。


「…ううむ」

ベルの隣で唸るレヴィ。病院送りになった全員は感電による気絶、或いは重体。
つまり先ほどの光は雷というわけだが合格者は隊長の元へとやってくるまでにその所持物全てを預けていることになっているので武器の類は勿論、ペン1本ですら持っている状態ではない。
故に何が起こったのか、誰が何を行ったのかはさっぱり不明とのことだ。
それでもただ一人無傷の女が無関係なわけがない。そんな曖昧な理由で懲罰房に入れられているようだ。勿論今までにこういった事は起こったことはなく新入隊員と部隊長の初顔合わせの予定は一旦取り下げられたという異例中の異例の事態となってしまった。
今年の嵐部隊に入る人間なんてどうでもよかった。面白そうな人間なんて自分の手元には来なかったのだ。だからこそこんな予想外の事案は寧ろベルとしては大歓迎であり。


「『身体売って入隊でもしたのか』、だってさ」
「…見えたのか」
「当然」

男の口元を見れば何を言ったのかなんて一目瞭然で、あまりの内容に流石のベルも眉を顰めた。どんな組織であったとしてもこういう下卑た言葉が飛び交うものかと嘆かわしくなる。別にこの女に対して同情した訳でも何でもないが、人数で囲って一人をいたぶるその行為自体が好かなかった。
いっそ喧嘩でもしてくれた方が面白かったのになーと机に肘をついて呟く。雷撃隊の隊長を務めるレヴィですら雷に関しての攻撃は武器があってこそ力を発揮できるわけで、じゃあつまりあの雷はもしかすると外部からのものかと既に解析班が動き出している。


「まー会いにいきゃ分かんだろ」

面白いことは好きだ。
今年の新人は面白くなさそうだったが一人、とびっきりのがいた。それがで、どうしても見ておきたかったからいち早くレヴィの元へと向かったというのに肝心の女は謹慎状態だなんてイレギュラー中のイレギュラーで、残念がるどころか寧ろ面白みが増すばかりである。
履歴書に写る緊張した様子の女の姿を見て、レヴィに見えないよう口端を歪めた。