懲罰房へと向かうとそこは異様に冷えており一人の少女が三角座りで顔を膝に埋めていた。
本来ここは規則違反者を入れたり、または任務中に有力な情報を持った人間を閉じ込める時などに使用されており通常であれば鎖やらなにやらを巻きつけられてはいるが、今回に限っては原因が不明な為ただ入れられているだけのようだ。


「…ぐすっ」
「なーお前。ここから出してやっから王子と遊ぼうぜ」

ポケットにナイフがあることを確認しながら檻の中の少女に声をかける。
どうやら泣いているようで、あーめんどくせと心の中で毒づいた。
女の涙というのは厄介で、面倒臭い。優しい言葉をかける義理もないしどうしようかと頭をかいた瞬間に、吼えるような声が返って来た。


「嫌です!あなたどちら様ですか!」

目尻にたまる涙を隠すことなく少女は思い切り顔を上げる。どうやら暗い所にいるのもありこちら側が見えていないらしい。


「私はあのようなカス共をもう一度、今度こそぶち殺してレヴィ様への失言の数々全てを撤回させるまで謝りませんし出ません!」
「お前もう既に全員半殺しじゃん」
「殺します!絶対に!私の身体をとやかく言うのは何てことありませんがレヴィ様にはどういうプレイを所望されただの何秒で終わっただのと破廉恥極まりない暴言を絶対許しません!」
「…」

開いた口が塞がらないとはこのことか。
自分が目にすることが出来なかったあの場面でそこまで下品な会話が成されていたということも驚きだが一部レヴィに対して失礼極まりない言葉も入っていたとは。思わず笑うことも忘れてしまう。

それでもまだ正式入隊すらしていないレヴィへの忠誠具合には流石に不審な点もあり、本当にこいつと知り合いじゃないのかと後ろの男へと視線を向けた。

振り返ったベルがレヴィに声もなく問いかけ、首を横に振ろうとした…が

「…お前、アオギリの娘か」

唯一の、知り得る名前だっただろうがベルは勿論知らない名前だ。
しかしそれはどうやら当たりらしく、その言葉に身体を大きく震わせ立ち上がり少女は檻の奥から姿を現す。

黒髪の、背の低い女だった。ヴァリアーの女性用制服を着こなすが何とも胸の辺りが窮屈そうだ。
おっぱいでけーとベルの感想は勿論女には聞こえていないのだろう。目尻には涙を浮かべレヴィを見上げていた。


「レヴィ様お会いしたかったです…」
「…ああ。両親はどうした」
「今は日本に。ご連絡もできず申し訳ございません」

面白くないのは事実だった。
この女と仲良くしたいわけではないが完全に二人の世界に入ってしまっているのも気に食わないし女がほんのりと頬を染めていながらレヴィが固まってしまっているこの様子も。


「なーんだお前やっぱ知り合い?つーかこんなモン見せられたらあいつらじゃなくても身体を売ったようにも見「下種な」…ん?」
「下種な、勘繰りは止めてもらいましょうか」

ベルの言葉を被せるようにしてがその黒い瞳を此方へ向けた。
やっとこちらを見た。年は自分より2つ程下とは思えない幼い容姿をしているが先程とは違い染めた頬もどこへやら、ギリギリと射殺されそうなそんな鋭い目つきでベルを睨みつけていた。


「おい
「……あっそ」

急激に褪めた。何だこいつは。媚びる女も嫌いだが生意気な女はもっと嫌いだ。
あらかじめ持ってきておいた鍵でを閉じ込める檻の鍵を開けた。横でレヴィが停止の言葉をかけてきたが知ったこっちゃない。
此方は可愛がるつもりでやってきたのだ。噛み付かれる為ではない。


「来いよ。お前、王子が直々に殺してやっから」
「…私が勝てばレヴィ様に対し、地に額擦り付け謝罪していただきます」
「いいよいいよ。裸で仕事してもいーし、ボスの顔に落書きだって何だってしてやっから」

こいつは今殺す。
そう決めた後のベルはもうこの3年間同じ手法でその年のやり手の新人を殺してきた。
それがただ1番じゃない生意気な女に変わっただけで、レヴィの知り合いだからと許してやるつもりはない。
最早を見ることなくそのまま懲罰房の奥にある部屋へと足を向けながらに対してこっちへ来るよう指示した。


「待てベル!そいつは」
「顔は見れるように残しておいてやるよ」

放電女の異名を、この世界で彼と彼の母親と、そしてレヴィ以外の誰も知るわけがなかった。

聞かずに彼女と二人で部屋に入った事を後悔するだろう。レヴィが止めるも虚しくその部屋の扉は大きな音を立てて閉じた。
そして次の瞬間、閉まりきったはずの扉から漏れ出る光にレヴィは珍しくも眉根を下げやれやれとばかりにため息をついた。


―――ヴァリアー所属、アオギリ。
かつて剣帝テュールの手足であった当時最強の雷属性と謳われた男は、雷を自身の体内で発電しそれを身体に備蓄しそして感情のままにそれを放つという滅茶苦茶な力の持ち主だった。またその妻も雷属性、それも広範囲を一瞬で感電死させられる程に強い力を持つヴァリアー所属の女だったとか。

レヴィのみが彼の元に来ることを許されたのはその二人の極上の遺伝子を継いだ幼い少女の、コントロール出来ない雷に耐えられたからだった。


「あっりー?」
「レヴィ様!私やりました!」

バリバリと感電しながらも倒れることのなかったあたりはさすが幹部といったところなのだろうか。
ぴょんぴょんと飛び跳ねながらレヴィの元へと駆け寄るに対し、流石のレヴィもベルに対して同情の眼差しを送ったのだったが悲劇はこれだけではない。


の強すぎる放電はだだっ広いこのボンゴレの屋敷全体を停電に陥れたのだった。

どこぞの研究棟ではデータが全台消えたことにより騒然となり、またある場所では何処かのファミリーからのハッキング行為かとボンゴレ本部から精鋭がやってきたりと大変な有様になっていること、そして先程の新人の数名が搬送された病院にて退職届を早々に提出したことなど勿論誰も知る由もない。


当の本人はベルに打ち勝った事によりウキウキとしながら懲罰房で謹慎の10日が過ぎる事を心待ちに待っているだけだったのだから。

落  雷  !