謹慎期間である10日を過ぎるとは元気よく懲罰房から出て自分の所属するレヴィの元へと向かった。わざわざ自分の為に10日間付き合ってくれた看守役の人間に頭を下げるとお疲れ様と声をかけられる。
結局、あれからの罰が増えることはなかった。幹部であるベルフェゴールに対してのことも、それから自分が懲罰房に入ったあの原因が知られることもなかったのは幸運だったのだろう。

長い廊下を歩きながらは思わず笑みを浮かべた。あれから何年も経過したのだ。話したいことも、聞きたいことも、聞いて欲しいこともある。その為にわざわざ此処へとやって来たのだ。
きちんと自分の立場は理解している。かつて自分の両親がここに所属していたとはいえ、それは意味を成さないことだってわかっている。それでもレヴィの下につくことはにとってずっとずっと願ってきた夢だったのだ。


「雷撃隊に所属になりましたです。遅ればせながら本日初出勤ですお願いします」

雷撃隊のミーティングルームに顔を出すと既に任務に携わる同僚の姿が見えた。
自分だって今日からここに混ざるのだ。そう期待に胸をふくらませるも、肝心のレヴィの姿が見えない。
親切な新人の一人がに気がついて声をかける。


「ああ、レヴィ様なら隣の部屋だから」
「ありがとうございます!」

礼を言って隣の部屋への扉をノックする。数秒後、入れという自分の上司の声が聞こえ思わずへらりと笑みが浮かぶものの仕事中だと被りを振って表情を引き締めた。


「失礼します」
「…か。そうか、謹慎は昨日までだったな」
「はい!ですのでどうぞ本日より宜し」

挨拶の途中だというのに視界の端で何かがキラリと輝いた。
慌てることもなく目を細めると目の前に雷の防御壁を展開する。父親直伝のその技はレヴィにも見覚えがあったのか、ほぅと感嘆の声が聞こえた。

ちらりと飛んできた方向を見れば、その雷の壁に刺さるのは変わった形のナイフだった。


「へえ」
「…ベルフェゴール様ですか。先日は失礼致しました」

その刺さったナイフを取ろうとするの首筋を狙ってもう1度、死角からナイフが飛んでくるがそれもの張り出した防御壁によって弾かれる。
カランと音を鳴らして床に落ちたそれもきっちり拾いあげて、目の前の男を見返した。

部隊は違えど上司である彼に対し表面上こそ大人しくはしているが、の内心では腸が煮えくり返っている状態だ。この男は何でも邪魔をしようとする。
あの懲罰房の時からそうだった。自分とレヴィを引き裂こうとしているのか、ただ自分が気に食わないのかよくわからないがレヴィに対しての―例え同僚であったとしても―馴れ馴れしい雰囲気、小ばかにした感じが気に食わない。


「…すいません、このナイフは今電撃を帯びているのですぐにお渡しできないので此方へおいておきます」
「気にすんなって」
「!っ」

電撃の強さは無意識下のところでも行われてしまうためコントロールが出来ないのが彼女の欠点だということは今この場においてはレヴィ以外知らないところだろう。

雷の防御壁により刺さったナイフがの纏う電撃を帯びているのは誰の眼からしても明らかで。そしてそれは残念ながら此処ではレヴィ以外の人間には耐え切れない程の電圧だった。


机の上に置こうとしたの手首ごと掴もうとして慌てて離れようとするもベルはそれを見逃さない。
怪我を負わすけにはいかず全意識を持ってその防御壁を取り去ると目の前の男はニィッと笑みを深めた。


!しまっ―――

腹部に鈍い痛みが走る。
受身を取ったもののよろめいた彼女のその頬へと再びナイフが飛んでいくがそれはまた新たに展開した防御壁によって弾く。


「こいつでいいや」
「?何を」
「…
「あ、はい!」

レヴィの声に慌てて立ち上がり敬礼をする。痛覚がない訳ではない。
けれど痛みを表情に出す事は厳禁だと幼少期より育てられていた事によりそれは他者に悟られることはなかった。


「…先日の停電事件の件で、深刻な人手不足となった」
「停、電?」
「お前の落とした雷だ。他の機関にはまだお前の仕業だとは分かってはいないが…見事に嵐隊のメンバーばかり退職、もしくは重体になってしまってな」

嵐、隊。嫌な予感がする。いや、そんなまさか。
縋り付くような視線をレヴィに向けるがそれは無慈悲にも宣告される。


「使えそうな新人を1名、嵐隊にまわして欲しいということで」
「…もしかして」
「そうだ」

ゆっくりと後ろを振り向くとベルがにやにやと笑みを浮かべていた。
先程彼は何と言った。『こいつでいいや』?そんな、まさか。あれだけ先日雷を浴びせたというのに忘れてしまったというのか。


「ししし。お前今日から俺の部下な」

今すぐこの男の上に落雷しないかしら。
は心の底から強く思い、それでいてそう悟られないように「宜しくお願いします」と笑みを浮かべるも
抑えきれず漏れ出した殺意にレヴィがぶるりと身を震わせた。