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きっと夢だ。夢に違いない。
落ち着くのよ
あなたはただのOLだし趣味は確かにコスプレっていうまあ少しだけ普通一般に話せるものではないけど、まだ突然意識を2次元に飛ばせるようなそんな面白い特技を手に入れた事は無い、はずだ。
誰でもいいからそうですねって肯定して!


「…あ゛あ゛あ゛あ゛」

後悔の言葉すら思い浮かばなくてさながら呪怨。いや私はホラーが嫌いだし内容を知っているわけじゃないけれど。
さっき私の前に現れたあの人は、どうせリボーンの世界に入る夢を見るなら会っておきたい人だったけど。だったけど!
まさかそんな…素っ裸を見られたいわけでも、彼の裸体を見たいわけでもなかったっていうのに。

こういう趣味を持っている私が男性とお付き合いする時間を確保している訳もなくまだ誰にも…この柔肌、見せたこともないって言うのに!


「――死にたい」

ハイパー鬱モード。一言、それに尽きた。



―――話が逸れた。
何度考えようとしても最終的に私は六道骸に裸を見られたという事に行き着いてこうして頭を何度も机にぶつけているという有様だった。
私だって見間違いかと思ったけど、綺麗な肌だなとか思ったけど、…いやいやそれよりも現実世界では滅多と見ることのできない赤と青のオッドアイは確かにあの人で、間違い、ない。

あの後、お風呂から出て急いで部屋に駆け上がり鍵をかけて。
気のせいだ気のせいだと自分で自分を慰めて今に至る。


「(…確認、しよう)」

今日一日の出来事を。
私はリボーンの漫画とアニメを見て、ヴァリアー用の隊服を作ろうとして布屋に行った。
しつこいようだけど小1時間、私のこの趣味を隠すことも無く話したらやけに親身になって聞いてくれた店員さんと話し合いをし、結果、税抜8500円の布や小道具等、総額3万程度の物品を買い込んで部屋で数時間作業をした。…うん、ここまでは間違いない。

出来栄えをチェックしようと適当に置いてあった雲雀用にセットしていたウィッグを被って、細かい修正は明日にしようとして…ええとそれから。


「やっぱり階段から落ちたから…?」

気がついたら、私は自分の家から並盛の学校の屋上にいて草壁くんに出会って、保健室へ連れていってもらって。
沢田の怪我の手当をして、それから彼が私のことを雲雀さんと呼んで。
獄寺の腕を掴んで取り乱しちゃったんだっけか。


沢田は私のことを雲雀さんと呼んだ。
獄寺も私のことを警戒しながらも雲雀だと断定した。それで、本人が現れて私は逃げようとして‥


「で、戻ってきて」

裸を。
そして私はまた心の底から思うのだ。


「――死にたい」



あ゛あ゛あ゛あ゛


悩みに悩み抜いたけどもう疲れてしまった。
考えても無駄だし結局自分の家に帰ってきたのだからこれはこれでいい経験をしたということにしておけばいいんだ。

とりあえず、お腹が空いたし適当にご飯を作って小腹を満たして。
珍しくハンバーグの材料も買い込んだことだし作り置きして残りは冷凍庫にいれて月曜日のお弁当にでも出来るように準備は万端。

隊服は結局家のどこを探しても見つからなかったのだけどそれ以上に今私はあることに気付いた。


「どうして…」

携帯がつながらない。
家のどこにいっても圏外のまま。SNSの最後の画面は見れるけれど、更新ボタンが効かない。私の部屋には他に通信機器がないのでこれは非常に困る。

そして一番の恐ろしいことが、これだ。


「…」

玄関を前に、数時間私は座り込んでいる。
じゃあ携帯が故障かもしれないから修理に行けばいいんじゃないかと珍しく解決策を思い浮かんだというのに。
扉を開けたらそこは、見知った場所じゃなかった。

街並みと言い、通り過ぎる人と言い、どう考えても日本じゃない。
おうちごと海外に引っ越したようなそんな感覚に近い。
どこかで見たこともある気がするけれど今は悠長にそんなことを思い出すこともないし、大学卒業してから勉学に励むことなんてなかった私が微かに聞こえる言語が何語だなんて分かるはずも無く。

私の鍛え抜かれたコミュニケーション能力はここではなく、イベント会場で発揮されるのだ。ああ何て使えない私!


「お腹、痛い‥」

それでもこの痛みは、夢じゃないもの。
本当はもうどれも夢じゃなかったなんて分かってはいるんだけど頭が追いつかなくてオーバーヒートしている。
こんな状態で外に出るのも何が起きるか分かったものじゃないしフラフラと部屋に戻りベッドにバタンキュー。

「私が何をしたっていうの…」