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残念ながらというか、有難いことに、というべきか。私の頭は私が思ったより単純に、かつ図々しく出来ていた。
人間ってある程度キャパオーバーしてしまうと何でも割り切って考えられるようになってるみたい。
事件の鍵というものは結局、最初の場所にあるものなのだ。
この難易度マックスに設定された脱出ゲームを解き明かすしかないという私はもはや探偵気分。混乱を極め、必死で考えた結果がこれだ。


「…よし、おっけー」

姿見で見えるその姿は雲雀恭弥のコスプレ。
身長はどんなキャラの設定どおりでも合わせられるよう各サイズの厚底靴を持っているけどそれは玄関にあるので今は代わりに近くにあったパンプスで代用。
悲しきかな厚底を履いたと過程してパンツを製作したので今の私が履いたら丈が長いのだ。決して足が短い訳じゃない。

今度は自分で用意した学ランも、トンファーも念の為に持っている。
あの時に起こったときとほとんど同じ格好をしたら何か起こるんじゃないかなってそうおもったんだけど…
あ、いやそれってつまりまた階段から落ちないと駄目ということか。


「痛いのは、嫌…だなあ」

怪我をしたら病院へ、悪い事をしたら警察へ。そんな当たり前の事で。

誓って私は悪い事もしていないし頭をぶつけたかもしれないけれど怪我はなかった。それに携帯も使えないし外は知らない場所になっている今は誰かに助けを求める方法だってない。
とりあえず、今までのこれらが夢じゃないとするのであれば家の中にさっきまで素っ裸の六道骸も居た訳だし、外に出るより先に調べておくべきは家の中だ。

家の外が私の見知ったものじゃないこと、皆に雲雀恭弥だと認識されていたこと。
今いるこの部屋を探してもヴァリアーのコートも紛失していたことは衝撃的だったけれど今はこの際何も言ってられない。


「…はあ」

ドキドキと心臓が痛い。つまりこれって夢じゃないってことでしょう?
気合を入れて両頬を自分の両手でパチンと叩いて気合を入れなおす。さあ何でもいいからかかってきなさい…っ。

そう思いながら廊下へと続く扉を開け…

たら、そこはまた違うお部屋でした。


「え」

突然のことに開いた口が塞がらない。
後ろで扉がバタンと閉まり慌ててドアノブを回して首を突っ込むとそこはもう自室ではなく最近の記憶に残っている学校のような長い廊下。
私の部屋はドアが閉まった瞬間移動したかのように、跡形も無い。

ところでここ、どこ。
気品のある雰囲気に柔らかそうなソファ。一対になっているあたり誰かと商談するところ、だろうか。
なんだか少し見覚えのあるようなところだったけれど…


「やあ会いたかったよ偽者」

聞こえたのと同時にブンッと音がして逃げる暇はなかった。
気が付いたら目の前には鈍色の棒が飛んできて、転がり込むように避けると、獰猛な黒い獣が心無しか楽しそうに目元を細めてこちらを見下していた。


「ッ!」

わーすごい本物だ!って感動は意外と薄かった。
アニメで見ると多少柔らかい感じだったというのにこうやって見ると最早冷たいお人形さんだ。「へぇ」と心なしか楽しそうな笑みを浮かべた彼は女の私であっても見惚れるぐらいに美しい。

とうとう出会ってしまった。これが雲雀恭弥。
そんな彼から恐らく受けるだろう痛みの程を想像するだけで震えてしまう。だってこの人に関わると流血沙汰になってしまうことなんて、漫画を見れば一目瞭然で。


「咬み殺す」
「っそ、その前に一つだけ聞いていいかな」
「何」
「あの保健室の時から、どれぐらい経過してる?」

変なことを聞くねと彼は不思議そうな顔をしながらも雲雀は律儀にも2日だと教えてくれた。
私が家に帰ってからお風呂に入って玄関で考え事をして…って結局睡眠もとってないから半日も経過してない訳なのに。時差というものが少しだけ発生しているみたいだ。後でここで時計が手に入るようなら入手しておきたい。

あっ今すごい脱出ゲームしてる感じがしてきた。


「質問はそれだけかい」
「…それと、貴方は私が誰に見える?」
「ワオ。そこまで僕に似せておいて図々しいんだね」

脳内で、メモ。
どうにも私の今のこの姿は、彼らにとって本物とほぼ変わらないように見えると。
流石に目の前のこの人の腕をつかんで獄寺に叫んだみたいに設定とか色々違うでしょだなんて睨むわけにもいかない。


「っわ、」

またブンっと飛んできたトンファーをこれまたギリギリで避ける。
ギラリと輝くそれは確実に私を傷つけるためだけに動いていて、最早軌道なんて見えない。ただ振りかぶった腕を見て、そこから離れたい一心。本能で動いているといっても過言じゃなかった。
私の運動神経でこんなことが出来る事は驚きだった。


「折角君も持ってるんだったら、構えたらどう?」
「そう言っても使ったことはないんだよね」
「…残念」

それなりに様に見えるよう鏡の前で練習してきたんだし覚えてるけどもちろんこれを本来の目的で使うことはない。


―――ガキンッ!

それでも構えだけはやっぱり練習しただけあって、私に当たる瞬間に彼の振りかぶったトンファーに対して手に持った自作トンファーで防ぐようにしてぶつかった。
金属同士の嫌な音がするけれどやっぱり力では敵わないので後ろに吹っ飛ぶのは私だけで。

ああ怖い怖い怖い怖い!

ホラーよりも謎よりもこの命の危機に関してのやり取りが一番怖い。
間近で見る雲雀は息も絶え絶えな私とは大違いで、この状況を楽しんでいるように見えた。



(あ、雲雀ってまつげ長い)