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学生時代は文化部に入っていたし、体育の授業は人並みには出来たけど社会人になってからは運動なんて一切していない。
それなのに私は不思議とあの戦闘狂の雲雀恭弥の攻撃をすれっすれとは言え何とか避けてはいることに我ながら感動した。あと何回か当たったけど思ったよりは痛くない。
が、少しでも痛いと思っている時点でやっぱり夢じゃないんだとか考えられるぐらい不思議な余裕も湧いてきているわけだから私って実はサバイバル能力にも長けているのかと我ながら感心する。


「…なかなかやるね」
「いやいや必死だから!」

―――ブンッ!
あああ髪の毛何本か持って行かれた…けど私の髪の毛じゃなくてよかった。
金属が通り過ぎた後の風が、直撃したときは一体私の身体がどうなってしまうのかと恐怖へと陥れる。


「「咬み殺(されたくない!)」」

そりゃもう必死ですとも。命が関わってくるわけだもの。
以前友人と雲雀×雲雀のドッペルでコスプレ写真を撮ったことがあるけれどあの友達はこんな凶悪な顔なんてしてなかった!こんな人を傷付けることを目的にしているわけじゃないから当たり前だけどこんな怖い思いはしなかった!

足だってもうガクガクしている訳だし、トンファーを握る手も震えてはいる。
こんな事なら何か習っておけばよかったなんて思っても今更遅い。


「…そんな情けない顔しないでよ。僕の顔でしょ」
「そのトンファー置いてくれたら努力する」
「…」

ああ、自分の顔そのまんまだから手加減でもしていたとそういうわけだろうか。
ちょっと自惚れてた自分が少し恥ずかしい。

それでも、雲雀がトンファーをポイッと自分の後に投げてソファに座ったことにより私は脱力してその場に座り込んでしまった。


「?どうしたの」
「いや、あの、足の力が抜けて」

何だこいつみたいな顔でこっちを見てながら立ち上がり、私の腕を引っ張って立ち上がらせてくれる優しさに私は感動した。
だってあの雲雀恭弥だよ!
すぐに咬み殺すとかいっちゃって仲間でもボッコボコにしてた彼が!私の腕を!


「さて、話を聞かせてもらおうか」

…前言撤回。
逃がす気はサラサラ無いらしい。

私の腕を掴む彼の手が、そして私を見る目がギラついていて怖い。やばい私死ぬかも。






どちらかというとプレッシャーには少し弱い方だ。
今の会社に入社する時以上に雲雀恭弥からの質疑応答はまさに圧迫面接で、突然の胃痛が私を容赦なく襲った。


「君の名前は」
「…
「なんで僕の格好してるの」
「趣味です」
「…」
「……」

雲雀が雄弁に語るタイプじゃなくて良かったと今感謝してる。趣味って。趣味って!
いや全くもって間違いではない。
けどこの人に向かって私は三次元、貴方は二次元の住人で、私の趣味は二次元のコスプレですだなんて言えるわけがなかった。殺される。物理的に。

そもそもこの時点で敵だと思われている上に、雲雀の格好をするのが趣味な変態女とまでレッテルを貼られてしまうのは勘弁願いたい。
いやもうこの時点で色々アウトなのかもしれないけど、なんて早くもさっきの言葉を撤回して逃げたくなってきた。


「私もどうしてここにいるのかわからないんだ」
「…」
「全てを説明するには私も何がどうなっているのかさっぱり分からない状態で」

面接だったらここでアウトなんだろうなとか的外れなことを考えていた。
私だって分からないことを他人に説明するなんて無理にもほどがある。


「君は今どうやってここへ来たの」
「…それも、ちょっと今は纏める時間が欲しい」

雲雀の腕がぴくりと震えその手に持つトンファーがかちゃりと音を鳴らして私は身体を竦めた。


「君が困ってる事に関しては本当に本当に申し訳ないと思ってる。けど、自分がどうしてここにいるのか、どうやったら元の場所に帰られるか分からないんだ」
「別に僕には関係ないんだけどね」
「いうと思った。勿論、頼る気はないから気にしないで」
「…」

ここでか弱い女の子だったら泣きつけたのだろうけど、如何せん私だって色々一人でやってきた大人である。

自分の不始末はある程度は自分できっちりつけなければならない。そうだこの脱出ゲームは無料で出来る変わりに定員は一名なのだ。
それよりも彼に泣きついたところでどうしようもないし、文字通り咬み殺されるだけと分かっていたからかもしれない。


「自分のことは自分でしなくちゃ。て事で私はこの辺で失礼するよ」
「…何処にいくつもり」
「んー、よく分からないしとりあえずこの件に関しては獄寺も少し知っているから彼のところへ行こうと思って」

そこまで悪い子じゃなかったし、きっと理由を話せば少しは話を聞いてくれるかもしれないし、
何だったらさらにその後ろの沢田綱吉に頼み込めばどうにかなるんじゃないかなとまで考えられる程度に私はなかなか強かだった。だって主人公だもの。
弱い者の味方じゃない訳がない!

伊達に二十数年生きてきたわけじゃないのよ。今を生き残るためなら厚かましいことでも何でもしてあげようじゃない。


「…その姿で誰のところへ行くって?」
「あっ」
「……」
「だめ、かな」

立ち上がったところで、それは雲雀の矜持を傷付けることになりかねない事に、いまさらながら気付く。
やっぱり、まずいか、な。

たっぷり数分。
考え事をし始めた雲雀の顔を遠慮なく見て、紙面や画面ごしじゃ見れないこの整った容貌を色んな角度から遠慮なく見てたワケだけど。
そうやって楽観的に考えようとしている私と、この無言によりキリキリと痛む私の胃は休ませてくれることもなく。


「仕方ない」
「!じゃあ行」
「僕の家に来なよ」


(え、これってもしかしてそういうフラグ?)