13

放課後に裏門で待っているように言われ、私は大人しく裏口からコッソリ隠れて雲雀の仕事終わりを待っていた。

「雲雀さんお疲れ様です!」
「雲雀さん、さようなら!」

思わず最初の一人には手を振ってバイバイって言っちゃったけど完全に怯えられた。痛恨のミス、雲雀は絶対やっちゃいけないことだ。頑張って無表情になりながら声をかけられてもチラリと視線をやる程度にした。
怖がられてるばかりじゃなかったみたいですごく新鮮な気分だ。そうだ、どれだけ怖い人であったとしても中学生だもんね。

私も小さい頃は喧嘩の強い子がすごく格好良くて仕方ないと思えていた時期もあった。そんな感じなのだろう。
恐怖ばかりではなく多少の羨望の眼差しも感じて自分の事のように誇らしい。


「あ、」
「ヒィッ!」

沢田だと思えば獄寺が後ろについてきていた。同じ学校だしすれ違うのも当たり前か。
当たり前のように獄寺が沢田の前に立ってダイナマイトを構える。嫌な予感がしたけれど沢田がすぐに獄寺の服を掴んで停止をかけた。


「…この前はありがとうございます」

瞠目して彼を見返すも、沢田から私に対して怯えの様子は見えなかった。
沢田には勿論伝えていない。
恐らく話したのは獄寺だろう。一応上司にあたるのだから報告は当然か。

私が私だと、分かったのだろうか。
それならすごく嬉しいし何かの糸口になるかもと思ったけれどなんだっけ、主人公くんは何やらすごい直感みたいなのがあるんだっけ。ちょっと後で資料見ておかなきゃなあと思いながら私は彼らに声をかける。

もちろん、あまり親しげにしていると姿を借りた雲雀にも悪いからあくまでも無表情に。


「…今度は気をつけること。後、本物だったら殴られるだろうからもうそんな態度取らない方がいいよ」
「!」
「え、10代目まさかこいつ」
「いやー俺も何となく、なんだけど」
「本当は話がしたいんだけど今日は生憎用があってね。暫く雲雀の家に厄介になる事になったからさ」

また今度ね。
そう沢田の耳元でつぶやくと頭を撫でて裏門へと向かった。









幸運にもそれ以上誰にも会わず無事に合流できた雲雀に連れられて家へ向かうと私の想像していた仰々しい和のお家かと思いきや、学校に近いアパートの一室を借りているみたいで質素を極めた部屋だった。
私の部屋とは大違いだわ…。
なんたって私の部屋は壁にはキャラクターのウィッグを並べ、クローゼットには衣装を何十着もギュウギュウ詰めにしている有様だ。


「…ここで生活をしてるの?」
「ここは忙しかったりしてる時に使ってるぐらいだね」
「…なるほど」
「ところで」

ずいっと私の前に乗り出す雲雀。
人間、慣れって怖いものでこんなに綺麗で整った顔が目の前にあるというのにどうしても相手が中学生だとわかるとすごく微笑ましくなってしまう。
雲雀の瞳には不思議そうな私の顔が映っている。…雲雀からすれば同じ顔が目の前にいる今の状態は面白くないんだろうな。


「その髪の毛、自毛?」
「いや、ウィッグなんだけど」

説明をしても、きっと伝わらないだろう。
何せ私だって自分の髪の毛どこいった状態なのだから。外れない。そして今、私はウィッグを被っている感覚にもなっていないという不思議な現象に襲われている。


「…その割にあんまり驚かないんだね」
「うーん…こっちに来てから不思議なことだらけで今更感もあるんだよね」
「一生僕の姿なの?」

あ、今ものすごい嫌な顔された。
気持ちはわかりますスイマセン。


「いや、それが私の部屋に戻った時は外れたしお風呂にも入ったんだけど」
「君の部屋?…あ、そこが君が寝泊まりしていい部屋だから」
「ありがと。そうそう、あの保健室の時、カーテンをバッて開いてさあ。そうしたら私の部屋があったんだ」

何気なしに与えられた部屋に足を運んで。
それから雲雀の方を振り返るとそこには既に彼の姿はなく。
バタン、と音がして閉まったと同時、その後の私の瞬きをしている間に回りの風景はガラリと変わった。


「…あれ?」

やあやあ、どうも。私の部屋。
君は本当に少しは空気を読んだほうがいいと思うよ。私が言うことではないけれど。