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「誰が主人公か、分かったもんじゃない」

自室”でざいなーずるーむ”に座る女は1人、小難しい顔をして部屋にある鏡を睨みつけていた。





幼い頃はどちらかと言うと読書を好み自称大人しい性格だったが、年をとるに連れめきめきと成長期の男子よりも背を伸ばし、
いつの間にか何をさせても卒無くこなす比較的中の上といった部類に定着した。
勉学をやらせても運動をやらせても、飛び抜けてとまではいかなくても平均よりは上をとった。

それでも目立つことが苦手なはできるだけ避けるように徹底し、結果学生時代の友人やクラスメイトからはこぞって「物静かな人」と形容される程度の存在であることに成功した。

そんな彼女の楽しみは、何時頃からかハマってしまったコスプレである。
好きなアニメや漫画を見るとそのキャラクターに恋心を抱いてしまうというのがの友人たちにありがちと言ったところだったが、如何せんという人間は少々変わっていた。


『このキャラクターになれば趣味の友達が増えるんじゃないか』

下心満載で始めたのがきっかけだったと今でも覚えている。
学友が欲しくないといえばそれは嘘になるがそれ以上に趣味を共有する友人が欲しいのは確かだった。

結局のところ彼女の元々整った顔つきに高身長という恵まれた体型、そしてその人懐っこさが幸いして頻繁に出入りする小さなイベント会場に足を踏み入れればほぼ皆勤賞であるということに踏まえ当時の旬のジャンルを常に扱っていたということもあり、ちょっとした人気者となった。

構図をあーでもないこーでもないと漫画の世界観やキャラの相関図を大事にしながら会場で友人達と一緒に写真を撮り、帰りがけはその写真をみんなで見ながら笑いあったり、次回はこの撮影会をしようと提案したり―――とても充実したイベントを月に、2度。


それ以外の休みは衣装製作したり資料を集めたりしてはいるが、実のところ小さな会社の事務員というのが本来の職業である。
現状に何の不満もない。が、今のこの置かれた自分の環境にはぶつくさ文句を垂れてしまうのも仕方が無いと思う。


手にしているものはこの事件に陥ってから一切の時を刻むのを諦め外部と連絡することすら諦めた絶賛仕事サボり中の携帯と、目の前に制作した衣装の出来栄えをチェックする用の姿見。
そこに映るのはいつも通りので、緩いパーマをかけた鎖骨まで伸びる茶髪をぐるぐるぐると指で持て余している。


「…主体はあくまで私じゃなく、キーになるものはリボーンの中の誰かではなく扉を開ける私ってことか」

彼女の、なかなか楽観的な性格が今のこの状態でも大して取り乱すことなく出来ている要因だった。

―――の悩んでいることは、ある種前向きなものだった。


「どうせリボーンの世界に触れるなら見ておきたい、のだけど」

何かしらの扉を開いて移動しようとしたら高確率であの世界に触れられる、のであるならば折角なら本人のコスプレをしてキャラクターを混乱させるよりは彼らを第三者から見ておきたい気持ちもある。
そう考えると今度は誰のコスプレをしようか悩んでしまい体内時計でいうと既に半日は経過している。
資料はこの部屋ではなく隣にある本当のの部屋にあるのだが、それに移動するのも扉を使うのである意味、身動きがとれなかったのだ。


「さてさてどうしたものか」

基本的には男装メインなので並盛の女子制服がなかった。
有り合わせでどうにかなると言えばどうにかなるのだがそれは果たして皆にはどう認識されるのだろう。
こんな事を悩んでいる間にも謎の時差が発生して勿体ないことになっているかも知れない。
はたまたいつの間にか本当の世界に戻れているかもしれないけれど。


「なるようになれ、だ」

にんまりと口端を釣り上げる彼女の目の前にあるものは、