02

痛みに目を覚ますとそこはいつもの部屋ではなかった。
ぼんやりとしながら寝転がっているここは一体、どこだ。本来であれば家の天井が見えるはずなのに何故だか青空が広がっていていい天気だなあとすっとぼけた感想。
上から降り注ぐ太陽の光はうとうとと…いや、駄目だ私起きて。


「いででで」

頭と、背中をぶつけた記憶はある。
何度か連続して後頭部をぶつけ、視界がぐわんぐわんと揺れたところも何となく覚えてるから、出血していないだけでもラッキーって感じなんだけど…これはウィッグがヘルメット的な役割でも果たしてくれたのだろうか。

…いやそれにしてもここは何処だ。

家でもないどこかの屋上らしき場所に何故か寝転がっていて、すごく長閑な光景が見えた。あれ、これ本当に東京。

上体を起こし自分の格好を確認する。
気がつけば羽織っていたヴァリアー用のコートはなく、ただ男用のYシャツとスラックスのそれだけで…えっ、どうしようあれ無くしたの?嘘でしょあれどこいったの。私の税抜8500円と数時間の傑作なんだけど。
今知らない場所にいる事より、アレを無くしてしまう方を心配している程度に私の中の優先順位のぶっちぎり1位を占めているのも変な話だったけれど仕方ない。前も、後ろも、右も左も。見渡す限り人もいなければ服も無い。


「…うーん」

どうしたものかとポケットを探っても携帯も何もなく、階段から落ちた後の記憶もなく。
困りに困って頭をガシガシとかいた、その時だった。


「ここに居られましたか」

バンッと突然近くの扉が開いてゾロゾロと学ランの人達が現れた。
このご時世、めったと見れるわけじゃないリーゼントの子達の登場に私は開いた口が塞がらなかった。
そしてリーダー格だろうか、私に話しかけた人は口に何故か葉っぱをくわえちゃってもしかしてそれ口にしたらやばい奴じゃないのと最近ニュースを騒がせてる話を思い出す。


「…委員長が突然出かけると言われたので用意はしたのですが」

さっと私の後に回り、肩に黒い服をかけた。

…え、羽織とかじゃなくて学ラン?えっ、学ラン?何も反応が出来ない程混乱して私は彼の顔を見返すしかできなかった。
何のドッキリ番組に出てきてしまったのかと辺りを見回しヘルプを求めているのに残念なことに周りの男の子達はそれが当然だと言わんばかりに真面目そうな顔で私を見ていたし、頭上ではカラスが鳴いているだけで何の救いもない。


「ねえ、」
「どうしました?」

悪戯をしているような、そんな感じも見て取れなかった。
ああもしかしたらどこかの役者さんが私のことエキストラか何かと勘違いしてお芝居を始めているのかもしれない。
あ、違う私この番組知ってるかもしれない。素人に普段じゃありえない場面を見せておいてそのリアクションで笑うやつ。
でも今の私はそれだと分かっていても視聴者が喜ぶような面白い反応をすることができなかった。


「頭が、痛い」

ここはどこかしらとかそういうのを聞く余裕すらなく現状の痛みを伝えることに必死の私はリーゼント君の袖を引っ張って伝えた、瞬間だった。


「失礼します!」
「わっ」

ブワッと体が宙に浮く。
わあ、背負われたのって何年振りだろ。…私ちょっと最近太ったけど大丈夫かな。
持ち上げられて彼の背中に負ぶさったまではいいけれど、後ろの生徒達が青ざめてこっちを見た。
私の状態、そんなに悪いのかしら。血、流れてないと思ったんだけどなあ。


「委員長!お大事に!」
「早く休んでください!」

見た目は厳ついけれど優しい子達なのね。
あーそっか役者さんなんだもの、そりゃそうだよね。私みたいな一般人にいい面見せておかないとダメだものね。
後でこの番組宣伝できるように呟いておくから任せて!そんなにフォロワーさんいないけれどちゃんと宣伝してみるから!


「ありがと」

痛みを堪えながら笑みを浮かべて、私はリーゼント君と共に建物の中へ移動した。
これ、いつテレビに映るのかな。あいやこれは面白くなかったからボツかもしれない。残念。



「委員長が笑った!」
「礼まで‥頭が痛いと言っているのになんて優しい方だ!」
「鬼だ悪魔だ死神だなんて言われてるけどやっぱり俺らの委員長だ!!」
「俺はついていくぜ!」
「おれもだ!!」