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「…というわけなんです、けど」
「ふぅん」

食後、珈琲を飲みながら雲雀には私の知っていることはある程度話した。
勿論漫画の世界に来ちゃいました、なんていえるはずもなかったので少しだけ言葉を濁して。

――とはいっても違う世界から来ただなんて最初は信じてくれなかったし私も頑張って説明はしたんだけど、結局は財布からレシートを取り出してその住所が調べても全然ヒットしない土地であったこと。持ってきた携帯がこちらの世界のものとは全然違ったことで不承不承といったところで納得してくれた。

携帯に関しては、所謂ガラケー世代だから違うものというよりは近未来なものなんだけど、ね。そしてレシートというのは例に漏れず布を買った時のものだったからまたこれも趣味用?と白い目で見られたけどええハイごもっとも。


「でもそれ使い物にならないなら意味が無いね」
「おっしゃる通りで」

食器を片付けて珈琲を飲みながら雲雀は私の携帯を指で小突いた。
私が触ったらいつものように反応するんだけども彼が触ってもうんともすんとも言わないことが余程面白くないらしい。
何かを考えるかのように雲雀はじっと私の携帯を見つめていてもしかして壊されるかもしれないと震えた。
あ、ちょっと待ってまだデータのバックアップ撮ってないからイベントの写真は消されたら困るなとか考えていたらガタリと椅子を引いて立ち上がる。


「じゃあ僕は帰るから」
「!もうこんな時間か…」

少しホッとしたような、名残惜しいような。
言っちゃ悪いけれどまだ学校に友人と呼べる人は居らず、私は久々にこれだけ話した気がする。

雲雀を見上げながら時計を見たら既に21時を回っていた。
私が中学生の頃だったらもうテレビを見て家でくつろぐタイムだっていうのに最近の子はこんな時間の外出も怖くないのか。
いやでも中学生だしそもそも引き止めちゃ流石に不味いよねぇ…。そう思って玄関まで見送ろうと立ち上がる。
あ、でも


「というかここ雲雀の家なんだから別に寝て行ってもいいんじゃ」
「……貞操観念もないの」
「……ん?」
「いや、小学生上がりには何も関係ないか」

ものすごく失礼な言葉が聞こえた気がする。
帰る気だった雲雀が今度は面倒臭くなったのか珈琲のお代わりを促され、泊まっていくことが分かり私は布団の準備を始めた。
もう一対、お茶碗ぐらいは買っておこうかなと思いながら。

ああ、だけど今日はちょっと感謝させてください。


「神様本当にありがとうございます…」
「何馬鹿なこと言ってるの」

人の家のものを勝手に触るわけにもいかなかったので私にあてがわれた部屋以外は殆ど手をつける事はなかったけどここは何しろ雲雀の第二の家だ。
大分みっともない所ばかりを見られてきた私にとってもう彼から何を言われても動じない。
でもまさかそんな、設定外のものが見れたら嬉しいじゃない。


風呂上り。
雲雀のパジャマ姿に興奮する20代とは私の事です。
…っこんな大サービス本当にありがとう。生きててよかった!
天井に向かって手を擦り合わせる私を見下しながら雲雀はさっさと私の用意した布団に潜った。



「本当に変な子だね、君は」
「お褒めいただき光栄です!」
「………おやすみ」