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人生2度目の中学生!そんな事を言ったところで私が過去体験した中学生時代とは全然違うわけで。
今、他の人が認識している私だって本物の私じゃないとなればある意味劇に参加している気分にもなる。事細かい設定とかは流石に覚えてはいないけど、少なくとも私はここから数ヶ月の間おこるだろうイベントごとの結末だけは分かっているのだから。
…とまあこんな事を考えていたら何だか負のループに陥ってしまいそうなので最近は出来るだけ考えないようにはしているんだけど。


「お、押切じゃん。また同じクラスなのな」
「みたいだね」

1年とは違い、2年となればクラスの発表ぐらいで何の感慨もない。
幸運にも私は彼らと同じクラスになれた。
桜の一件もあり私は彼らから引き離されるのかと思ったけれど、この世界はそこまで酷くはないらしい。いや、半端に近しいところに置いておいていざ大事の時には引き離される方がある意味残酷か。


現在7時30分。
家にいたってやる事もないし恭弥をさっさと送り出した後私も早めに学校へ。
あの家は好きだ。私の根城だし、あそこであれば何も隠すことはない。
だけど、という気持ちはある。あそこは私の本当の家じゃない。

最後に自分の家に帰れたのももういつだったか覚えていない。こちらに来た当初こそ突然”でざいなーずるーむ”に戻されたりしたというのに、それすら無く私はただただ平凡のような非凡のような、それでいて少しだけ平穏な日常を送っている。


「…山本今日は朝練?」
「雨だったし中止だってさ」
「成程。天候に左右されるのだけはいただけないよねえ。早起き面倒臭いし」

誰かさんのせいで起こされる私とは違って、体育会系の部活…特にグラウンド使用の部活動生は可哀想だなと思う。


「まあ、押切と話せたっていう役得もあったしラッキーだったのな」
「あらまあ、嬉しいことを」

爽やかな好青年と言うものは本当に眩しい。
私が言うときっと嫌味にしかならない言葉も彼が言うとこの年の女の子ならば浮足立ってしまうに違いない。確か彼はファンクラブみたいなものもあるんだったっけ。是非とも私も入会したいところだ。


「ホントだぜ?獄寺とかはよく話してるみたいだけどあんまり話す機会ねーしさ」
「そういえば、確かに」
「否定しねーのな」
「ふふ」

そうして、改めまして。お花見の時は確かに誘ってはくれたけどそれは沢田から頼まれたらしくて、実際彼とふたりで話すことは無かった。
私たちはグラウンドに振り続ける雨を見ながら四月の始まり、自己紹介をしたのだった。


「そういえば、並盛の総合記録ことごとく抜いてきたって聞いたぜ」
「何それそんなのあるの?」
「あ、は知らねーのな。体育会系部活の中じゃ結構そういうのがあって」

教えてもらったところ、体育の授業はもちろん体育科を出た先生が担当していて彼らが独自に記録を各部活動顧問に横流ししているらしい。
それってプライバシーとか…なんて今更思わない。私ももう慣れたものだ。

まあそんな感じで、私の出す記録というものが短距離から長距離、はたまた瞬発力なんかが3年間頑張って部活動を行っていた女子より、種目によれば男子よりもいい記録を出しているらしい。
何となく、この皆からの熱烈な部活勧誘を受けていると分かる、気もしないでもない。期待の星だとか、どこどこ高校への道のりが〜だとか、オリンピック選手も〜だとか、聞いていると私にさずけられた能力は平均値を上回っているのだろう。


――そういえば、恭弥と相対したあの日。私が恭弥の格好をして、彼と会ったあの日。
後から聞いたけれど彼は私に対して姿には驚いたものの手を抜いていなかった のだという。確かにあの人が手加減なんてものができるとは思えない。
つまり恭弥には勿論劣るけれど、鍛えればそこそこ戦闘力も見込まれるんじゃないだろうか。…いやいや私は非戦闘員でありたい。武力反対。


「…野球は興味ねーか?」
「部員勧誘?流石に厳しいって」
「えーじゃ見るのは?」
「あ、それは割りと好きかも。高校野球とか良く見てる」

この世界に高校野球なんて番組あるのかは知らないけど。
それでもその答えに山本はニカッと輝かしい笑みを浮かべると私の机に両手をついた。


「じゃ、さ。今度応援来てくんね?」
「んー?いいよいいよ。全然行く」

そうして私は来週の日曜日のお昼に山本の試合を見に行くことになった。
まあ、たまにはこういうのも悪くない、よね。流石に山本の試合にボンゴレ全員大集合なんてことは…きっとないだろうし。うん。


「あ、後さ」

不意に山本が私の耳元へ口を寄せてきた。内緒話みたいで何事かと思うと、


「!そんなわけ、」
「だよなー安心した!」
「あ、おはよう山本…と、押切さん」
「よーっすツナ今日は早いのな」



『雲雀と住んでるって噂マジ?』
(…登校時間ずらすか)