04

「何すんだ!」
「…君の、名前は」

自分の事ながら声が震えているのを感じた。
なんだこれ。夢か。夢じゃないのか。

はたまた実写化で商品になる前の何かそういう企画に飛び込んでしまったのか。アニメ2期くるまえに?実写化きちゃう?
いやいや、そんな。だって。君が少し震えてるのも手が汗ばんでるのも感じちゃってる辺りこれ夢じゃないんじゃないの。


「君の名前は、獄寺隼人で間違いないかな」

今更何言ってんだ、という表情で彼は私のことを見返し、そして私は今内心ムンクの叫び状態で言葉を失った。


…薬棚のガラス越しに自分の姿が見えた時はまさかなって思ったの。
黒のウィッグを被り、リーゼント君によって学ランを羽織らされた私はまさにリボーンの中の雲雀恭弥のコスプレをしてるようにも見えて。


――いやいやでも、私は私だ。正真正銘私で、…女で、だ。
でも間近で見た誰もがそれに気が付かないってどういうことなんだ。
ていうかそもそもこんな化粧だってロクにしてないし、ちゃんとコスプレしたような感じになってない中途半端さで私は廊下をリーゼント君に背負われて走ったわけ?

ただの変態だよねどうしようもうお嫁にいけない。めそめそし始める私に獄寺がいよいよこいつと哀れみの顔をし始めた。


「おい、お前やっぱり体調が」
「…君は私が誰に見える?」
「誰ってそりゃ」

雲雀だろ。
おずおずと、まるで私の機嫌を伺うように言われたその名詞にムンクの叫び、パート2。
ガッデム!どういうこと神様説明して!ああもしかしてこれ夢ですか。そうだよね突然家で転んだ私が屋上なんかにいる訳ないし。


「雲雀じゃないの私」
「はあ?」
「だってほら設定とか全然違うでしょ。声とか見た目とか、色々とさああ!!」
「設定って…ぐぇぇ」

彼の胸ぐらを掴んだって解決しないものは仕方ない。

私がどう言うわけか雲雀恭弥に見えているのだ。
見た目なんて一介のコスプレイヤーのそれだし、声なんてまんま私じゃない。どうなってるの。え、もしかしてこれが今巷で流行中の成り代わりってやつ?私雲雀恭弥になってこの世界のこの学校の秩序とか守る使命とか与えられちゃったわけ?
いやいやそんなまさか。いやいや、そんな…まさか…


「夢だ」
「はあ?」
「夢に違いない。寝たらきっと元に戻る。おやすみなさい」

きっと、いや、絶対に、そういう事だ。まちがいない。
閃いた私はさっそく実行に移すことにして唖然とした獄寺を放置してベッドに横になった。眠気はまだまだ来ないけれど、きっといつかは。


「…お前、ほんっとーに雲雀じゃないのか」
「だからそう言ってるでしょ。信じてくれなんて言わないけど」
「10代目の怪我に対してあの処置。雲雀らしくねーし…」

ああ、雲雀らしくないから一応信じてくれるって?
私の記憶だと彼はボスである沢田綱吉に手をかけようとする相手全員にダイナマイトを投げつけるイメージだったけどそうじゃないことに布団を肩までかけながら気がついた。

ふうん、意外といい子じゃない。
というかやっぱりあの茶髪の子は沢田綱吉…だったんだ…よね。見たことあるとかじゃないよそもそもこの前彼のコスプレをしようと用意したところだったじゃないか。
そりゃ資料もアニメも漫画も、ずっと見続けたんだもの。見たことあるとかじゃないよ…。


「私の名前は。いつ覚める夢かわからないけれど、もしどうにもならなかったらよろしく」

こんな自己紹介、一生に一度の超レア物に違いない。
目を見開く獄寺に対して私は笑みを浮かべると安らかに目を瞑った。