沢田綱吉&リボーンの喪失

夏が近付いてきている。

リボーンが来てから何だかんだ忙しい日々が続きっぱなしだったけどようやく落ち着いた気がする。
ある意味リボーンがきてから忙しくもなったし悩み事も増えたけどそれ以上に賑やかになったしオレはオレで毎日が結局楽しいし実はこいつすげー家庭教師なんじゃないかなって思うときもあるわけだ。ヒットマンだけど。

まあ、でも色々あった。
突然ファミリーのボスになれだとか、色んな勘違いを経てオレを慕ってくれる獄寺くんや、親友である山本を巻き込んでしまっていることや、その他色々とごちゃごちゃ考えることがあったけどそのつっかえがストンと落ちたようなそんな感じだった。
本当はあんまり物事を深く考えるタイプじゃなかったっていうのもあって、1つ片付けば案外何とかなるものなんだなーとか思ったりしてアイツが来てから色々オレも変わるところがあった気がする。多分。
だから今も前を向いて歩いているし、足取りも何だかいつも以上に軽い気もする。


「最近いい表情してるな、ツナ」
「うん、前を向いて見上げてたら何か、何とかなる気がしてさ」

日曜日。
今日は山本の大事な、野球の練習試合の日だ。
秋になればもっと大きい大会があるらしいけど今日は地区大会の予選らしい。気がつけば母さんによって大量に作られた弁当が朝から用意されていて両手には今それで一杯一杯になっていたけど、きっと山本の家からも豪勢なご馳走があるのだろうと思うと今日は一体何がメインなのか分からなくなってくる。まあ全部美味いし、残さず食べなきゃなあなんて口元を緩ませながらリボーンからの言葉に言葉を重ねた。


「背負い込んだってどうしようもなくてさ。でもオレにしかできないことは、いつか来るだろうから、それだけは逃げ出さずにいようって。そう思ったら最近の悩みがすっごく馬鹿らしく思えてさ」
「……誰かに教わったのか?」
「…え」

それは変な間だった。
てっきりツナのクセに、と突っ込まれるかと思ったのにリボーンの声色は何故だか不審そうなソレで。
何か変な事を言ったのかと見返しても赤ん坊のくせに立派な帽子を深々と被りなおしながらオレの肩へと乗るリボーンの表情は見ることができなかった。


「…俺もな、ツナ。最近色々と駆け回っていたんだが全部片付いてな」
「そうだっけ?」
「ああ。でもその案件自体忘れちまったんだ。スパーンとな」

リボーンでも忘れるんだな、なんて思ったけど何だか引っかかる物言いだった。こいつが何かを忘れる?そんな事が有り得るんだろうか。なんて。いやだってヒットマンだけど所詮赤ん坊だし別に不思議じゃないのか。
モヤッと何かを感じたのはその時だった。けれどその理由は分からないまま、だけど、少しだけ嫌な予感がするのはどうしてなのだろう。そのモヤつきを放っておかない方が、いい気がしたのは何でだろう。

……どうして、こうもずっと心の奥底、晴れやかになったはずのその裏で重い何かが居座っているんだろう。
こんなことをリボーンや山本、獄寺くんに言ったらきっと心配されるだけだろうからきっと言わないけどさ。

さっきの言葉だってオレ自身が考えた言葉じゃなく誰かの言葉だった気がする。
誰かに自分の悩みとかを言える人なんていなかったのに。リボーンからいつか受け取った言葉かと思ったのに成長したじゃねーかと珍しく褒められる有様で。
きっとアニメか漫画の見すぎなんだろうな。最近のアニメってクオリティすごいし。


「(けど、さ…)」


―――何だか胸が痛いんだ。

この、喪失感の原因は何だろうと考えることが増えた。
けれどいつまでもこんな暗い顔はしてられない。今から待ちに待った山本の、仲間の試合なんだ。応援して、今度はもっと大きな大会に応援しにいかなくちゃならない。

ぎゅっと母さんからの弁当を握り締めて…あ、でもそのまえに。いっけね、これ忘れてたら後で怒られるとこだった。
気がつけばオレの肩じゃなく隣の塀の上を歩くリボーンにカバンから出した袋を渡そうとすると「野郎からのプレゼントは受けとらねえぞ」と一度は断られたけどこれは生憎オレからのものじゃない。


「昨日オレの机の上にこれ置かれてたんだけどリボーンのかな?」
「……たしかにオレのだな。お気に入りなんだぞ」

リボーンに手渡したのは綺麗に洗濯されたハンカチが入れられたオシャレな袋。
本当は2−Aの教室で変わったことがあれば全部応接室にいってヒバリさんに報告しなきゃならなかったんだけど「リボーン様へ」とかかれたその小さなメモ用紙は見たところ女子が書いたような文字だった。
それをオレの机に置いたってことはつまりこれは不審者からのものじゃなくて、


「お前誰にハンカチなんて貸したんだよ」
「…さあな」
「はー、これだからイタリアの男は!」

ハンカチを貸す環境とかになってみたいよホント。
あの京子ちゃんがハンカチを忘れる訳ないし、オレだってそんなのいっつもポケットに入っているわけないしさー。

そんなグチグチといいながら先に行くオレは気がつかない。
立ち止まったリボーンがどんな表情をしていたのか。

どんな様子でそのハンカチを握っていたのか。


ズガンッ!


「ひぃい!」
「走れよツナ。オレの分もな」

はあ!?何言ってんのかわかんねーけどリボーンこええよ何怒ってんだよ。
突然後ろで鳴り響く銃声音に、さっきまで考えていた何もかもが吹っ飛んでオレは走り出した。