エスの悲劇
いつかの誕生日の、少し前だった。 皆で夕食を食べていた時に、父さんがふと提案したのだ。 「もうすぐの誕生日と、僕達も結婚記念日だし今年も旅行に行きたいと思うんだがはどうかな?」 母さんにも既に話はつけてあるみたいでニコニコと笑ってこちらを見る母さんも、私に食後のケーキを運んできて返事待ち。 答えなんて本当は知っているくせに、この人たちと来たらいっつもこうだ。 チョコレートケーキをしっかりと味わってから私はいつものような返事を返した。なんてったってこのケーキは個数限定のレア物だからだ。 「いく!」 こうして夏休みの過ごし方は決まったのだった。 大量に出された宿題もさっさと終わらせたし、掃除もした。ついでにギリギリ帰ってきても慌てないように始業式の準備までしてしまって、どっちの方が楽しみにしてるんだかって父さんに笑われたんだっけ。 仕方ないじゃない。何でもかんでもきっちり守れるような人にならないと、たっくんや真人くんと同じ中学校に行けないもの。その頃は勉強を頑張れば黒曜に通わせてくれるだなんて言ってくれたから小学生なりに色々努力を惜しまなかった。 そして、私の望みを叶えてれる程には我が家は裕福だったし、幸せだったの。 「お土産楽しみにしてるね」 「美味しいの買ってくる」 「僕はみたいに食いしん坊じゃないから写真でいいよ!」 「ひどいなぁ」 真人くんとの言葉もそれだけだった。 だって、たかが旅行だもの。夏休みが明ければ、私はまた真人くんと学校にいき、たっくんを崇拝する日々が始まるの。 「すぐ帰ってくるね!」 「行ってらっしゃい」 「行ってきます」 そして、その対になる言葉を再び交わせるまで五年の月日が必要になるだなんて思ってもみなかったわ。 |