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正直に言う。
俺は子供は嫌いだし、実力が無いくせにその恵まれた恩恵に浸っている人間も嫌いだ。
だから何処かでベルが拾ってきたガキがぬくぬくと寝ているのは任務帰りで殺気立ってる俺はハッキリいって殺したくなったし、泣きわめいたら放り捨ててやろうと思っていたのに。

―――何だこいつは。

天蓋を開いてまず目に付いたのはその華奢さだった。俺の周りの人間といえば既に何人も人を殺し、その為に特訓を繰り返す猛者ばっかりだった所為か病人かと思ってしまうぐらい細くて白い。胸ぐらを掴んでいる時も、本当に生きているのかと思うぐらいに呼吸は浅く、放っておいても間もなく死ぬんじゃねえかと許しそうになったが。

『助けていただきありがとうございます』

突如イタリア語で話し始めたコイツは怯える様子が一切無ェ。かと言って自分は絶対に守られていると自信を持っている訳でも無いし、ただ謎な子供だった。
ベルもベルだ、色気もクソもねーようなガキをこの屋敷に持ち帰り「俺の下僕」だなんて言いやがって。

時期が時期だけに俺は何としてもいつもと違うものを許すわけにはいかねぇし、不安要素は微量であれ全て取り除いておきたいところでもあった。


話を聞く限りはどうもただの不幸な日本人のガキと言ったところだがなんだこの違和感は。初対面でこんな感覚を持ったのは、初めてだった。改めて指を見てもナイフや剣を持っているような手には見えなければ筋力も一般人と何ら変わりがない。
何を気に入って、持って帰ってきた。ちらりと元凶を目にすればさっきの下手なイタリア語で話したのが余程気に入ったのかベルがガキに肩入れする気が目に見えて分かる。


結局ベルが仕切ることになり、反対派の俺がガキと手合わせをする事になったが。
面倒くせえし、とっとと殺すかあ゛。

「はーい、じゃあこれ食ってね」
「もぐ」

楽しそうにベルがガキにくれてやったものを見て、そこで初めて納得した。
あのガキを持って帰ってきた理由。どこぞで試してくるから、と俺達よりも多めに新薬を手に入れ出て行ったアイツは実験体を調達したということか。

あの薬の成分は俺にはよく分からなかったが、どうも生命を蝕む代わりに力をくれてやるものらしい。勿論俺達も配布はされているそれは、今となっては数もさほど作ることが出来ないレア物らしく口に出す機会は早々ない。
今回少し複製のしやすいよう色々と変更点があるだなんて言ってはいたが、そもそもベルに至ってはまだ使用したこともないだろうし分からないだろうが。

そうか、わざわざこのガキを持って帰ってきたのはこの薬を飲ませて一時的にこいつを強化し俺にその効果を見せ、且つ楽しい一戦をくれるって…そういうワケか?

「おいガキ。お前、殺しはしたことあるか」
「…ないです」
「残念だなァ。こんなに楽しいことを知らずに、」

死ぬなんてよォ!
勝負は一瞬。ガキの細い首が吹っ飛んで終わり。

…その筈だったが、振りかぶった剣がガキを傷つけることは無かった。
言い訳も何もしねぇ。ただただ、このガキが俺の軌道を読み剣を素手で捕まえたそれだけだった。剣にヒビの入る音がして慌てて距離を取ると初めて糞ガキと目が合った。

「う゛お゛ぉいベルてめえ!」
「面白いだろそいつ」

死なねーんだ。
満面の笑みを浮かべるアイツを今すぐ張倒したい気分になった。今この時点でガキが薬を口に含んでから何分経ったかよく分かってねえが、力のある大の大人ですらあの薬を飲むとすぐに意識が朦朧として倒れちまうか、痛みを感じない殺人人形になっちまうかしか見たことがねえ。
だと言うのに、

「お前、その力どこで手に入れた?」
「やだなあ、昨日が初めてってさっき言ったところじゃないですかァ」

楽しそうに口端を持ち上げ笑う姿は、ベルのよう。
静かな佇まいはまるで歴戦の剣士のよう。
そして、

「…なるほど。面白いモン拾ってきやがって」

先程まで気が付かなかったが、俺を見上げペロリと唇を舐めたガキのその目はヤツの如く血に濡れた赤色だった。
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