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例の薬はMorte frettolosaと言う。いつ、誰がどこでこのような名前をつけたのかは定かではない。 製造方法に関しては自分達ヴァリアーの幹部の誰であっても不明であり、昔から支給され死線を超える度に皆で使用し気が付けば減った分だけまた新たに何処からか調達されているとスクアーロは聞いていた。とはいってもXANXUSがボスに就任してから方向性を変えた彼達が使用することはめっきり減り、加えて長い眠りに就いてからは誰もこの薬を使用することはなかったので何もかもが闇の中という訳だ。 「これはな、」 持ち帰ってきたものの、あのベルが面倒を見るわけが無かった。ペットか何かと思ってでもいるのだろうか。気に入って持ち帰り、可愛がるだけが面倒ではないというのに。 戦いだけは教えるから、とスクアーロに全部押し付けて天真爛漫な彼の王子はさっさと長期任務に行ってしまって残されたはよろしくお願いしますと一礼。 日本人を何人か殺しに出向いたことぐらいあったが全員は大人で、子供なんて見ることもなかったのでこの貧相なが幾つなのか、そもそも性別すら判断し難かったが、大方、ベルと同じぐらいかそれより下と推察した。 成長期も声変わりもまだの様子で、短い黒髪は耳の下でざっくりと切られていてベルの黒髪バージョンとでもいったところだろうか。 宛がう部屋も今は無く、仕方ないからスクアーロと同室にしろとぞんざいな様子で面々が決めてかかり「何が楽しくて男と同室だあ゛!」と暴れかかったが結局それも宥められて同室という有様。 八つ当たりとばかりにの寝床はソファにしたが早くも罪悪感がスクアーロを襲っているという有様であった。 取り敢えず暫くの担当は嫌々ながら引き受けたものの、それでもこの癖のない黒い髪の毛と礼儀正しさだけは認めてやろうとは思っている。 「こいつは俺達ヴァリアーが支給される薬だ」 「はい」 「どんなモンかは分かるだろうが…俺達がいない所では飲まねえこと」 「分かりました」 「以上だあ」 まだヴァリアーに入隊を許可した訳でもないが、一時であっても自分達と関わりを持った以上格下に見られては困る。どうせその辺で野垂れ死になったり、自分達ヴァリアーの情報を入手しようと誘拐されて荷物になるぐらいならそれを飲んでとっとと死ねといったところも正直なところあった。 かといって簡単に無くしたり落としたりされても困るものではあったのでいつぞやに買った小さな小箱に入れての首に提げた。 華奢な首に似つかわしくない大きなものをぶら下げながらはにかんで礼を言うを見て、もう少し何か凝ったものでもくれてやったほうがよかったかと思ってしまう程度には、気に入っていた。 「屋敷内は自由に行動して良い。ただし外出は禁止、必需品があれば誰かに言え」 「はい!」 「他になにか質問は」 「えっと、」 おずおずと声を上げるは本当に昨日のあいつと同一人物なのだろうかと思ってしまうぐらい大人しい。 本人曰く元々は日本人特有の黒い目だったようだがあの薬の影響なのか瞳が赤くなっちてしまっているようで朝、鏡を見たが驚いていたようだがそれもすぐ見慣れてしまったらしい。こういった容姿は案外本人より周りの人間のほうが目につくものである。 それが少しだけ自分達のボスであるXANXUSを僅かながらでも彷彿とさせているのは皆も思っていることだろう。 「ここの、ボスさんにご挨拶をと思うのですが」 「…何で分かる」 「え、」 「ここが、ボスのいる組織だと」 「…」 「それに、お前は大体分かってんだろ?ここがどういうところかなんてよぉ」 所々で、鋭い。 ベルも戦いのことになると天性の才能を見せるが年齢の割りに頭の回転が良いのだろう。 それは生き抜くために必要な力で、自分達に最低限備わらなくてはならない力である。殺気を込めて聞いてみると少し言い澱む様子が見れたが、スクアーロの顔を見て答えた。 「ベルさんは私と出会ったところがマフィアの屋敷だと知っていましたし、じゃあベルさんの所属しているのも恐らくマフィアのところで。 でもあそこより服装とかも紋章とかもしっかり統一してますし…」 大きい組織の、それもここの人たちはその中でも殺人やらをメインに動いている少数精鋭のところじゃないかなと、安易に思ったんですが。 段々言葉尻が消えていくが反対にスクアーロには笑みが浮かぶ。 頭のいいところも、スクアーロはなかなか気に入っている。 ベルもたまにはいいものを拾ってきやがると最年少のあの生意気な子供を褒めてやる気にもなる。不安そうに見上げるその赤目を撫でてやるとは少しだけ照れて俯いた。 「正解だあ゛」 「!」 「だが今は不在でな」 しかし新参者であるに教えるには色々とまだ早いがそれ以上に教えてやろうと思える程度には気に入っていたので軽く組織図だけ説明をし、ボスは自分達のやらかしてしまった重大なミスの所為で後数年本部で働くことにってしまったので自分達のみで今は活動していることを伝えた。 あながち間違いだらけでもないし、これならほかの奴らも合わせやすいだろうという考えがあってのことだ。 も納得したようで、ありがとうございますと深々とお辞儀をした。 |