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がヴァリアーの屋敷へ来て、早1年が経過した。
幸か不幸かはこの環境に押し潰される事もなく、まだ幼かった事もあり自分の身の上を悲観的になりすぎることもなく著しい成長を遂げた。最初の方こそ付きっきりで面倒を見ていたスクアーロも戻ってきた仲間に後を託し長期に渡る仕事へ赴く事も増えた。
それでも、いちいち戻ってきてはの様子を見る程度には可愛がっているようで、もそれが分かっているのだろう一番懐いていたといえる。

「お帰りなさい!」
「生きてたかあ゛?」

他のメンバーにも結局はあの薬を飲んだの姿を見せ、実力を持って納得させた。未だにアレを飲んでも副作用もなかったようだが先日ベルが一緒になって飲み込んだ時は矢張り副作用に数日意識が戻らなかったというからは恵まれていたのだろう。

そして、一番に悩んだのは誰が戦闘面を見るかという点だった。薬を飲むことで飛躍的な身体能力を手にするだが、それ無しでもある程度は強くなってもらわなくては困る。最初こそスクアーロが教えるつもりだったがあの小さな身体を生かすにはベルのナイフを覚えるのが妥当だということで当分はベルが面倒を見るということにはなっている。

「やっぱ教える俺も天才って感じぃ?」
「そうだね、やっぱ王子は天才かも」
「っしし」

年の近い子供同士、仲良くしているのはある意味微笑ましいものがあった。の面倒自体はルッスーリアに早々と投げたがそれも上手くいっているようで、今はルッスーリアの指導の下語学を学んでいるようだがそれも着実に吸収しているらしい。
――言うまでも無いが、スクアーロはの境遇を不幸だったなと思うことはあっても同情してここに置いている訳ではない。
行く行くはベルの下にしっかり付けるよう教育し、XANXUSが戻った時に土産話として聞かせるつもりだった。

自分達はボスが不在だとしても上手く組織としてやって行かなければ彼に顔向けができないのだから。

「暫くここにいるの?また手合わせしてよ」

久々に帰ってくるとが嬉しそうに出迎えてきて、これはこれで悪くねえと頭を撫で付けながら思う。少し扱かれたのか生傷が増え、ベルと同じようだった耳元で不揃いに切りそろえられた髪型もスクアーロのいない半年のうちに伸びていた。
これでは少し見たところ女にも見えかねないしまた切ってやるべきか、それとも今度は自分のように髪の毛を伸ばすのも悪くないと艶やかな髪を弄りながら思う。

「昨日ルッスにボスさんの写真見せてもらったよ!」
「へぇ」
「ボスさんすっごいかっこよかった!私もああなれるかな?」

興奮した様子のを見るのは久々だったが自分達のボスを褒められるのも悪くない。
お前にはまだ早いと言いながら酒を煽るとはアルコールの匂いが嫌いなのかスクアーロから少し離れてベルの後ろに立った。

「嫌われてやーんの」
「うるせえ゛」

今回の仕事は後味の悪いものだったがそれでも此処へ帰ると仲間が居たし、自分の居場所というものを再確認できた。生きていれば何とかなるのだと思えるようにもなったし後はもう彼が帰ってくるのを待つばかりだ。
お前とはいつ会えんだろうな、とを見ながら思い出す。もう、何年経過したことだろう。

とは性格は愚か見た目だって本当は似ても似つかないが、黒髪も赤い目も、どうしてもXANXUSを思い出して仕方ない。

「…あれ、スクアーロ寝ちゃった」
「三つ編みして遊んでやろーぜ」
「賛成賛成!」

今日は皆がいるせいか、酒が少し回ったみたいだった。いつもであれば問題のないこの量でも眠気が押し寄せる。
そんな中聞こえてくる物騒な会話に寝ぼけながら反撃しつつも、今この場に笑顔があるのはもしかするとのおかげかもしれないとふと考えた。
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