02:秘密の共有者(4/6)
スクアーロの任務内容はパーティの日までのの護衛、そしてパーティ中の依頼人の護衛と簡単なものだった。
これがどうしてボンゴレの本部に借りをつくるほどのものなのか分かったものではないが、初めてとして会ったあの日以来、血なまぐさいことは何も無かった。
今日も今日とて朝から少しだけと話した後、気配を消して彼女を後ろから見張っている。普段であれば隣にいたりもできたが今日の主だった仕事は来客対応らしい。
どうにも面倒臭い任務だなと思う。確かにスクアーロには不似合いで、一番苦手とする内容だったがそれはも同じように思えた。彼女は非戦闘員だと言っていたし確かに戦う者の体格ではないが、それでもの芯たるものに戦士に近しいものを見たのだ。それは自分がついていこうと決めたXANXUSの怒りのようなものではなく、静かに、秘めたものだったが本質的なものは見えない。ボンゴレ風で言えば実態のつかめぬ幻影とでもいうあの性格に似ているような気もしないでもない。確かに、霧だ。
そう静かに推察するスクアーロに気付いているのかいないのか、部屋の中でにこにこと笑みを浮かべながら依頼人のそばに仲睦まじそうに寄り添うは確かに親子のそれに見えるだろう。
ただ、依頼人の方はどうだ。どうにも彼女の事を下心で見ているような気もして不快感を覚えたが慌てて頭を振った。これではただの嫉妬ではないか。
しかし依頼人はの本性を知らないに違いない。いずれ顔面でも殴打されればいいのだ。
スクアーロ自身すっかり彼女に囚われていることは気付かないふりをした。
「……ではまたパーティーでお会いしよう」
「はい。お気を付けておかえり下さいませ」
苛々、苛々。
は何故こうもにこやかに笑みを浮かべながら本日の客人の相手をしているのだ。じぃっとその目であれほど見られてどうにも思わぬ男がいると思ったら大間違いだというのに、とそこまで考えて結局スクアーロの脳内を締めているのがであることに苦笑いせずにはいられなかったし、
誰もが見ていないその一瞬の隙をついて清々しいほどに大きな欠伸をした時は今日のあのジッとしていた様子の理由が垣間見えて馬鹿馬鹿しくなってしまう。なるほど、はのようだ。誰にも囚われる事もなく、自由な女だ。
そんな彼女は今日の夕食に何を用意してくれるだろうか。
ある意味所帯じみたことを考えつつも気配を隠しながら近くの木へと体を預け、無事に今日の仕事は終わりかと思ったその瞬間だった。
パチン、と何かの音と同時に突然溢れ出る殺意。
「っ、下がって!」
の鋭い声と同時にスクアーロも身体を動かし移動する。
扉の外で出迎えるボディーガードのうち一人がナイフを手に持ち猛ダッシュで内側で待つ彼らへと向かっていく。
本当に戦闘員ではないのだろうかと疑いたくなるような俊敏さで依頼人と客人の前に立つとボッと彼女の本来指輪があるだろう場所が紫に輝き何かしらの力を放とうとしていた。ここでが”ユーリア”ではないことが大々的にバレるのは不味いのではないかと姿を見られることを厭わずに彼女の前に立つ。
「…お前はいい」
声は聞こえただろうか。
それでも後ろからふっとリングの力が抜けたのを感じると剣を振りかざした。
男は力のない目で笑っていた。非常に不快だ。
思ったよりも至近距離だったせいで返り血は免れなかったが仕方ない。
「俺は先に帰るぜぇ」
が無事でよかった。
当然のことながらそう素直に思えたあたり未だ重傷の身だ。
は何を考えているのか分からない目でスクアーロをみつめていた。もしかすると血飛沫を思ったよりも浴びているのかもしれない。生暖かいそれはあまり気持ちいいものではないし、のその目は高揚するような、落ち着かないような、色々な気持ちが綯い混ざってしまう。
「っ、ヒッ、」
客人が何事かとスクアーロを見て何事かを叫んでいるが知ったこっちゃない。
見られて悪いこともないが自分は剣士であり他人に媚びへつらわなければならない義理もない。そのまま相手の反応を見ることもなく扉を閉め、
「…」
依頼人がを凝視している、その視線だけがどうしても腑に落ちなかった。
← →