03:銀の干渉(1/7)
『なあ』
『ん?どうしたの。仕事中に話しかけてくるなんって珍しい』
『…お前に黙ってたことがあるんだ』
目の前にスクアーロさん、それから相変わらず扉の外に2人、中庭3人。
盗聴の類は問題なしだということは分かってはいるけど例えばここで誰かが私に近付いて話しかけてきたりでもするようであれば問答無用で誰かがやってくることになる。
私の身の安全は守られてはいるんだけど周りには味方というものは居ないというこの変わった空間も大分慣れてきたもので最初の日に比べれば随分自然に振舞えているような気がする。
大きな部屋に静かなクラシック音楽が流れるこの部屋でスクアーロさんと私の2人きり。一件優雅なティータイムをしているようにもみえるけれど、案外殺伐としていて目の前のクッキーに手を伸ばすことだって結構気を使ったりするわけだ。
私がこの任務を受けこの地へとやってきたのはファミリーの中の事務員3名。全員が全員碌な戦闘経験もなければ任務経験だってない。それでも何故か依頼人がこの3人を指名したのだから受けるしかないということでやってきた訳だ。
彼らと私は現在引き離されてはいるけれど、そんな中であっても彼らと会話が出来るということは依頼人は知らない。
La condivisione delle informazioni…略して”CDI”。ちょっと格好いいでしょう。
私達のファミリーは所属と同時に、意志を言葉にすることもなく伝達させる術を覚えさせられる。それは事務員である私達にも同じことだ。簡単に言えば脳内でファミリー共有の電話回線みたいなものを使用しているというわけ。ハッキングされることもないし便利だけど距離に制限があるという欠点もある。ちなみにボスの悪口をここでこの前言ったら絶対聞こえない位置だと思ってたのに何故かバレて怒られた。ボス怖い。
他の情報屋ファミリーは原始的に暗号だとかやってるみたいだけどうちのファミリー、年齢層が高い割にこういうのに関しては結構最新を取り入れてるんだよね。だからこそ、所属条件は全員術士っていうちょっと変わった構成なわけだけど。
『なによーあんたが昨日私の財布から一枚引き抜いて夜の街に消えたことなんて怒ってないからね』
『!なんでお前それ』
『…報酬の分け前からきっちり差っ引くから覚悟なさい』
『うわあお前それズルいし!』
『何言ってんの様舐めないで』
ハッタリに負けるなんてダメダメねえ。とはいえ彼らも非戦闘員であるに変わりないから仕方のないことなんだけど。
紅茶を口に含みながら『それで?』と促す。
こうやって会話をしながらもスクアーロさんと他愛もない話をしている辺り自分の器用さを褒めたくなる。とはいっても本当毎日毎日スクアーロさんだってよく飽きもせず私に会話を振ってくれるものだ。
話題が尽きないのは有難いけど私は今ユーリアとして喋らなければならないので彼女に変装する当初に決めた”ユーリアの設定”を思い出してから話す必要があった。もう金輪際こんなめんどくさい任務は受けないんだ。いくらお金を積まれ…いや金額によりけりかな。
『実は』
『…は、』
話は数分で終わるようなものだった。私達情報屋はある意味要点のみを掻い摘んで話すことには特に長けているし、その内容から大体の背景を想像することだって容易なわけで。
彼らがとつとつと話しているその間私はいつもと同じように紅茶を飲みクッキーに手を伸ばし、目の前のスクアーロさんの話に耳を傾けながら内心恨みの言葉を吐き続けていた。
何なのあなた達馬鹿なの。どうして今話すの。私はどうやって彼の前で表情を隠せばいいの。
「…”ユーリア”?」
「…ふふ、ごめんなさい。昨日少し怖い夢を見てしまったもので」
訝しげな表情を浮かべるスクアーロさん。きっと私は顔を歪ませているに違いない。
正直何話してたか覚えてないや。適当に取り繕いふふふと笑んでみせたけど彼の固い表情を崩すことは出来ず失敗に終えた。
← →